御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
2. 血が繋がった嫌いな人
(おばあちゃん、元気そうでよかった……)
静枝が入所する施設からの帰路、美果は久しぶりに会った祖母の姿を思い出しては幸せな気持ちに浸っていた。
これまでの美果は、静枝に会いたいと思っていても簡単に施設へ足を運べない状況にあった。掛け持ちしていた三つの仕事がすべて休みになる機会がほとんどなく、毎日最低二つのシフトが入っていたからだ。
家から駅までの移動、電車の待合と乗継と乗車時間、駅から施設までのバス移動だけでどうしても往復三時間はかかってしまう。それにせっかく静枝に会うのならたっぷりと滞在時間をとりたいし、たくさん話をしたい。
圧倒的に時間が足りない――そう思っていたが、今の美果は一週間に二回の休暇を与えられた身だ。仕事が丸一日休みになる『休暇』という自由時間を得たのだ。
(手続きも全部終わったし、これからは休みの日に会いに来れる!)
翔の家政婦に転職して約二か月。ここまでは事務手続きや行政関係の届け出、天ケ瀬百貨店本社への挨拶や、元々の職場への挨拶回りとロッカー整理など、細々とした用事に追われていて与えられた休日もしっかり休めていなかった。
しかし次の休暇日からは完全に自由な時間が得られる。美果は好きなときに静枝に会いに行くこともできるのだ。
普通ってこんな感じなんだ、と的外れな感想を抱いてしまう。そのぐらい自分の感覚は麻痺していたのだろう。
先ほど会った祖母に、もうすでに会いたくなっている。次はいつ会いに行こうかな、と考えたところで、ふいに静枝の無邪気な笑顔を思い出した。