御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
(嫁のもらい手が見つかってくれれば、って言われちゃったなぁ)
一応、美果自身もわかってはいる。二十五歳の女性ならば恋愛のひとつやふたつぐらい経験していてもなにもおかしくはないし、なんなら結婚適齢期だろう。
祖父母が結婚したのは十代の頃だというし、両親も今の美果の年齢のときにはすでに梨果を産んでいた。だから静枝が心配して気にかけてくれる気持ちもわからないわけではない。
本日三回目の『結婚は相手がいないと出来ない』という結論に辿り着く。そう、恋愛や結婚は一人では出来ないのだ。
「……」
(いやいや、翔さんは違う! あの人は天ケ瀬百貨店の御曹司で、ただの雇い主……二重人格こわいし!)
なぜか急に頭の中に浮かび上がってきた翔の姿を、全力で追い出す。
確かに天ケ瀬翔は魅力的な男性だ。肩書や容姿はもちろんだが、大きな会社を背負う覚悟を決めて他人のために必死になれる強さがある。
その反面、美果のようになんの取り柄もなければ益にもならない相手を、一人の労働者として認めてくれる度量もある。大にも小にも目を向けられる視野の広さと器の大きさは、生まれや外見以上の彼の魅力だろう。
ただ、美形が睨む姿は迫力がありすぎてかなり怖い。最近は翔の視線や表情の変化にも慣れてきて、毎回恐怖を感じるほどではなくなってきた。だが彼が美果を、家事機能付きの目覚まし時計としか思っていないのは明白だ。