御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果と翔はあくまで被雇用者と雇用主。目覚ましと御曹司。恋愛に発展する可能性など限りなくゼロに等しい。
「ん?」
そんなことを考えながら自宅の近くまでやってくると、ふとリビングに照明が灯っていることに気がついた。庭の向こうがやけに明るいので『あれ、電気消し忘れたかな?』と考えたが、玄関の鍵が開いていることに気付くと、すぐに『中に誰かがいる』と直感した。
一瞬、空き巣に入られた可能性がよぎった。
だが違う。鍵が壊されていたわけではないし、家に入るとほんのりと室内が温かい。そしてなにより、玄関先に見覚えのない黒のブーティが転がっていたのだ。
慌ててスニーカーを脱ぎ捨てた美果は、転がるようにリビングへと急ぐ。
「お姉ちゃん……!」
「あら、美果。おかえり」
思った通りだ。リビングのソファに腰を下ろしてスマートフォンをいじっていたのは、姉の梨果だった。
久しく連絡が取れていなかった梨果の、突然の帰宅。――もちろん驚きも腹立たしさもあったが、生存確認すらとれていなかった姉が普通にぴんぴん元気な姿を見て、なによりもまず安堵を覚えた。
元気でよかった、と思うと、強張った身体から力が抜ける。
「よかった……全然連絡くれないからどうしてるんだろうって心配……」
「ねえ、美果。お金貸してくれない?」
「……え?」