御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 しかしほっと安堵するも束の間、梨果の口から放たれた言葉は、美果の予想を超える非情な台詞だった。

「今、春夏ものの新作が出る時期で、欲しいブランドのバッグが三つもあるの。だからお金足りないんだ」
「ま、まって……何言ってるの? 借りてるお金だってまだ返済出来てないのに」

 あまりにも非常識で遠慮のない姉の発言に、説得の声が震えてしまう。身体がふるふると揺れる理由が怒りなのか悲しみなのかは、美果自身にもわからない。

 いや、一番よくわからないのは姉の頭の中だ。

「それはそのうち返せばなんとかなるでしょ」
「え……?」

 美果の顔を見ることもなく、スマートフォンの画面をスクロールしながら淡々と告げてくる。だがとんでもない自論をあっけらかんと語る梨果に、とても理解が追いつかない。この人は一体、何を言っているのだろう……と頭が真っ白になる。

「だってお金は後からでも返せるけど、新作バッグはその時期にしか買えないんだから」
「ちょっと、ふざけないで!」

 後からでも返せると言うが、梨果は自分の借金を返済したことなど、一度もない。

 静枝こそ施設に入所したが、美果は生まれたときから住んでいるこの一軒家にずっと住み続けているし、携帯の番号だって以前から変わっていない。

 だから少しでも返済するつもりがあるのなら、一万円でも二万円でも握りしめてこの家に帰ってくればいい。忙しくてそれすら難しいというのなら、連絡をくれるだけでもいい。

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