御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
だが梨果にはその素振りさえない。返すつもりなんて毛頭ないくせに、なんて身勝手な主張をするのだろう。
「お姉ちゃん、今どこにいるの? お仕事は?」
「仕事は今はしてなーい。聡が商社のエリート営業くんだからいいの~」
美果の質問に、梨果がからからと笑う。
(サトル? 誰……? 新しい恋人?)
聞いたことがない名前だ。おそらく梨果が今付き合っている恋人だろう。
梨果は明るく華やかな見た目と愛嬌がある表情のおかげか、昔から異性に好かれやすい。
今だって明るく染めたセミロングの髪をふわふわのゆる巻きにし、ピンクベースのナチュラルメイクとベージュカラーの優しげなネイルで完璧な可愛さに仕上げている。服はカシミア素材のニットワンピースに、首にはダイアモンドが二つ埋め込まれた小さなネックレス。
地味な美果とは違う、二十七歳の〝可愛らしい大人女子〟そのもの。ソファに無造作に置いてあるバッグは数十万円もするハイブランドのものだが、一見すると浪費家であることを思わせない。これが姉である秋月梨果の特徴なのだ。
だから男性は簡単に梨果に貢いでしまう。先ほど言っていた商社のエリートとやらも、梨果のおねだりに負けて贅沢三昧を許容しているのだと容易に想像できる。
「欲しいものがあるなら、自分で働いて自分の稼いだお金で買ってよ」
「うるさいなぁ……説教聞きに来たんじゃないんだってばー」
美果の苦言を聞いた梨果がつまらなさそうに唇を尖らせる。