御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
本当は少しでも美果の話を聞いて、ちょっとでも自分の在り方を考え直してほしい。そう思うも束の間、梨果がまたとんでもないことを言い始めた。
「ねえ、美果にお金がなくても、おばあちゃんの年金があるでしょ?」
衝撃的な発言に思わず目を見開いてしまう。この人は一体どこまで堕ちるつもりだろう、と嫌悪すら覚える。
その新作のバッグというのは、自分たちを育ててくれた祖母の年金を使ってまで欲しいものなのだろうか。老後を穏やかに過ごしている祖母の安寧を願うことさえ、彼女には出来ないのだろうか。
最初に感じた梨果を心配する気持ちなどとうに消え失せている。拳をぎゅっと握りしめて、怒鳴りたい気持ちをどうにか抑え込む。
「……おばあちゃんの年金は、おばあちゃんのものだよ」
「でもおばあちゃんには残す子どもがいないんだから、いつか孫の私のところに来るでしょ」
「それはお姉ちゃんが決めることじゃない」
梨果は本当になにも理解していないらしい。
静枝が入所している施設は、いざというときに介護や看取りの役目を担ってくれる代わりに、それなりの入所料と施設利用料がかかる場所だ。入所にかかる費用はすでに支払い終わっているが、毎月の施設利用料には年金を充てているし、足りない分や臨時費用が必要なときは美果が支払っている。彼女はその事情さえ把握していないのだ。
「お姉ちゃんが作った借金、誰が返してると思ってるの? おばあちゃんと私に押し付けないで、自分で返してよ!」
「……美果、ほんとうるさい」