御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
なのに梨果は、借金の返済はおろか働いてすらいない。それどころか静枝をあてにしようとしている。そのあまりの無頓着さと人情のなさについ声を荒げてしまう。
妹から説教をされるとは思ってもいなかったのだろう。そこでようやく、梨果がスマートフォンから視線を上げた。
「もういいわよ、おばあちゃんに直接お願いするから。施設の場所教えて」
「!?」
美果の顔を睨んでくる梨果の言葉には、もはや怒りも悲しみも湧いてこなかった。ただ魂を抜かれたような絶望的な気分を味わう。
(お姉ちゃん、おばあちゃんがいる場所すらわからないの……?)
静枝が施設に入所したのは今から六年前。父との夢を叶えたかった美果が、まだ大学に通っていた頃の話だ。その時は梨果の借金が発覚しておらず、彼女も普通に働いていて連絡も取れていた。
だから仕事で忙しい梨果の分まで美果が静枝の施設探しに協力して、ようやく彼女が満足のいく場所を決めたときは、梨果にもその旨をちゃんと伝えたのに。施設内の様子や個室の窓から見える景色を写真で送り、面会時間と施設の住所もちゃんと教えたのに。
「なによ、教えないつもり?」
梨果が忌々しそうに表情を歪める。
違う。教えたくないのではない。ちゃんと教えているのに、梨果が気にも留めていなかったのだ。自分たちをここまで大切に育ててくれた、優しい祖母のことなのに。
「それならいいわ。お父さんのカメラ売るから」
「え……っ!?」