御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 それ以外のことであればどうにか我慢もできるが、この二つだけは絶対に奪われたくない。梨果の私利私欲のために汚されたくない。

 とはいえ、美果が亡き父のカメラを大切にしていることを知っている梨果だ。美果の反応から『この手は使える』と気づいただろうし、そうなるとまた同じ方法で金を無心しようとするかもしれない。美果が不在の間に再度帰宅し、本当に父のカメラを売り払ってしまう可能性だってある。 

「お父さんのカメラ、この家に置いてちゃだめだ……」

 父が愛用していたカメラを守るには、梨果がこの家に入れないようにするか、もっと安全な場所にカメラを隠すしかない。

 梨果の住民票がこの家にある以上、彼女が家に入れないように締め出すのは後々トラブルの原因になりかねない。ならば父のカメラは、梨果が手を出せない別の場所に保管するしかないだろう。

 どこか安全な場所はないだろうか。
 どこでもいい。静枝の入所する施設、友達の家、貸金庫……

「そうだ……翔さんのおうちなら」

 梨果が知らない、堅牢なセキュリティシステムに守られた場所。美果が思いつく中でもっとも安全なエリア。天ケ瀬グループの御曹司、天ケ瀬翔のマンションならば、梨果も気づかないし絶対に手が出せないだろう。

 ――相談してみよう。
 翔ならきっと、美果の力になってくれるはずだ。

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