御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
3. 宝物の隠し場所
「天ケ瀬部長、折り入ってご相談が」
「!?」
午後七時半に帰宅してきた翔に玄関先で正座したままそう告げると、何事なのかと驚かれて思いきり身構えられた。
美果の終業時刻は午後三時。本来ならばとっくの前に帰宅しているはずなのに、未だに居残っていたとは思ってもいなかったのだろう。
美果は自分の用件を手短に切り出そうとしたが、仰天して目を丸くしていた翔が不機嫌なため息を吐くほうがほんの少し早かった。
「その部長呼び、やめろって言っただろ。家で仕事のこと考えたくない」
「あ、申し訳ありません。翔さん」
真剣にお願いをしようとしたせいで、ついつい力が入ってしまった。翔が役職で呼ばれることを嫌うと思い出して大慌てで訂正すると、ふっと表情を緩めた翔が、美果にビジネスバックを差し出してきた。受け取れ、ということなのだろう。
素直にバッグを受け取ると、翔が靴を脱ぎ、洗面所でうがいと手洗いを済ませ、リビングに入りジャケットを脱ぐ。美果はその様子を少し離れた場所からじっと見つめ続ける。
翔の言葉を待つ時間『なんだか新妻みたい』と思ったが、それと同時に『というか、犬みたい?』とも思った。彼の退社を急かしたくはなかったのであえて事前に連絡はしなかったが、四時間半も翔の帰宅を待ち続けて、『よし』と言われてるまで静かに待っているなんて、自分でも忠犬のようだと思う。
けれどそうまでして相談したいことがあった。翔に事情を説明して、正式な許可を得たい理由があった。