御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 そんなものが何故ここに? と不思議そうな顔をする翔の目の前……ラグマットが敷かれた場所にまた正座した美果は、つい俯きたくなる気持ちと戦って、懸命に翔の顔を見つめた。

「実は先日、お姉ちゃんが家に戻ってきて」
「へえ? 金は返してもらえたのか?」
「……」

 翔の問いかけにはやはり黙り込んでしまう。もちろん聞かれることは覚悟していた。美果の事情を知る翔ならば、梨果に会ったといえば当然抱く疑問だろう。

「って、そんな簡単に返してもらえるなら苦労はしないか」

 だが結論は翔の予想通り。
 いや、予想よりもさらにひどい。

「それどころか、さらに無心されてしまって」
「は? なんでそうなる?」
「え、っと……」
「お前、まさかまた貸したのか?」

 翔の声が一段階低くなる。眉間に皺が寄ってあからさまに不機嫌な表情になる。

 彼が本気で怒ってくれている気持ちも理由も理解できたし、親身になってくれているのはありがたい。だが美形が歪む激おこフェイスが怖すぎて、再び俯いてしまう。

 せっかく心配してくれている翔に申し訳ない。さらに状況を悪化させてしまったことが情けない。

「このカメラを、質に取られそうになって」
「質……って、まさか父親の形見を売るつもりだったのか?」
「おそらく……」
「……。」

 翔が理解不能だとでも言いたげに眉を寄せる。

 その表情に少しだけたじろぐが、すぐに話を続ける。

 美果は必死だった。包み隠さずに事実を打ち明けて翔に怒られても、呆れられても、馬鹿にされてもいい。どんな誹りを受けてもいいから、父のカメラと自分の夢を守りたかった。絶対に守りたいもののためなら、翔に説教をされる覚悟もしてきた。

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