御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
「私、夢があるんです」
「夢?」
俯いたままぽつりと零すと、翔が語尾を上げて疑問の声を出した。問いかけにこくりと顎を引くと、胸の内に秘めていた言葉をゆっくりと語り出す。
「私の父はカメラマンでした。交通事故で亡くなるまで、世界中を飛び回って空と海の写真を撮っていた、風景専門のプロカメラマンだったんです」
美果の父、秋月亮介は風景写真の撮影を得意とするカメラマンだった。母、舞果と出会った頃はごく普通のサラリーマンだったが、昔から好きだったフォトグラフの世界に魅了され、大きなコンテストで賞をもらったことをきっかけにカメラマンに転職した。
父は地球上の美しい風景を一枚の写真に収めるために世界中を旅していた。あらゆる国や地域の山や海や森に空気のように溶け込み、大自然の息遣いを感じるような素晴らしい写真をひたすら撮り続けた。
「中でも、ハワイの海と空の写真はどれも本当に綺麗でした。一枚一枚がさざ波の音が聞こえてきそうなほど輝いていて、今にも景色が動き出しそうなほど生き生きとした写真ばかりだったんです」
美果も父に色んな写真を見せてもらったが、中でもハワイの海の写真は別格だった。
太平洋の東に浮かぶアメリカ合衆国に属する楽園、ハワイ諸島。父の撮った写真の中は何もかもがきらきらと輝いていて、空と海の境界線がどこまでも美しかった。
朝焼けの穏やかな海辺も、キラキラ光るセレストブルーの水面も、白い浜辺と強い日差しのコントラストも、夕陽が沈むグラデーションも、星が零れ落ちてきそうな夜の渚も、まるで違う惑星の景色のよう。