御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 ちなみに天ケ瀬家には、立ち入り禁止の部屋がない。小説やドラマでよくある『この扉だけは開けてはいけない』的な場所は一切存在せず、今いるこのリビングも、翔の広いベッドルームも、ゲストルームや物置部屋も、美果は出入り自由だ。というより、その部屋を整理整頓して清潔を保つことが美果の仕事である。

 どこに置かせてもらおうか、とりあえず物置部屋でいいかな? と考え込んでいると、ふと翔がカメラのバッグを指さした。

「ところでお前、カメラなんて扱えんの?」
「え?」
「いや、ハワイで写真を撮りたいのはいいけど、そんな高いカメラすぐ使えるもんなのかと思って」

 翔の疑問に一瞬瞠目するが、それに関しては心配無用だ。

「撮れますよ。いつかのときのために、多少は勉強して練習してるので」
「へえ」

 父が生きていた頃の美果はまだ幼かったので、父から直接カメラの知識や写真撮影のノウハウを学べたわけではない。

 だから同じような写真を撮れる自信はないが、一応年に数回はメンテナンスを兼ねてカメラをバッグから出しているし、家の周囲を撮影して遊ぶこともある。よって一応、写真を撮ることぐらいは出来る。

 翔が感心して頷くのでエヘン! と胸を張りたい気分になった。だが彼がふと放った言葉は、美果にはまったくの予想外だった。

「じゃあ俺のこと撮ってみろよ」
「……? え……?」

 ――翔を、撮る……?

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