御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

2. 夜のお仕事にて


 天ケ瀬百貨店東京で夕方までの勤務を終えた美果は、一旦帰宅して二時間ほど仮眠を取ると、すぐに次の職場へ出勤する。

 都内屈指の繁華街・六本木の一角に店を構えるクラブ『Lilin』はいわゆる『キャバクラ』である。しかし大きな会社やテレビ局といった有名企業が多いためか、どの店で働く女性も美しく気品があり、来店する客側も穏やかで紳士的な人が多い。

 美果が勤務するLilinでも当然のように性的な触れ合いや悪戯は厳禁で、所属するキャバ嬢が嫌がることをした場合はどんな客でも容赦なく退店を促される。そのため一応は水商売であるものの、美果としては比較的安全な環境で仕事が出来ていると思っている。

 いや、安全な仕事だと思っていた。
 今日この夜を迎えるまでは。

「いらっしゃいませ、Lilinへようこそ……」

 いつも指名を入れてくれる常連客・上山(かみやま)の席に近づいた美果は、そこにいた人物の姿を見て思わず凍りついた。

(あ、あっ……天ケ瀬御曹司さまぁ~……!?)

 突然出現した天ケ瀬御曹司こと天ケ瀬翔に、思わず後退りしてしまう。なんでここに……!? と口にしそうになった言葉をすんでのところで飲み込むと、どうにか頑張って笑顔を浮かべる。

「よ、ようこそお越し頂きましたぁ。本日もご指名いただきありがとうございます~」

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