御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 いや、そもそもこのカメラは、美果が中学生のときに亡くなった父が使っていたカメラである。あれから十年以上が経過しているので、当然最新式のカメラほど機能が充実しているわけではない。

 ただ写真を撮るだけならばスマートフォンに内蔵されているカメラアプリを使ったほうがよほど綺麗に撮れるような代物なのだ。

 カメラの設定と調節を済ませると、一度ファインダーを覗いてみる。これで上手く撮れるかどうかは実際に撮影してみないとわからないが、とりあえず初期設定としてはこんな感じだろう。

「いいですか? 撮りますよ」
「ああ」

 設定したカメラを翔の方へ向ける。相手に許可を貰って撮影をする状況を『学生の修学旅行に引率するカメラマンみたい』と思ったが、ささやかな妄想はファインダーを覗き込んだ瞬間にすべて吹き飛んだ。

 思わず呼吸が止まりそうになる。
 否、息をすることさえ忘れてしまう。

 翔の微笑む姿は魔性の色香を秘めた王様のようだ。リラックスした自然な姿は優雅で品があるのに、どこか相手を威圧するような風格さえ感じられる。

 ソファに身体を預け、長い脚を組んで、肘をついてじっとこちらを見つめられると心臓がドキリと飛び跳ねる。全身が甘やかな震えを生むほどに、彼の姿はただただ魅惑的だった。

(かっこいいなぁ、ほんと)

 整った顔立ちと恵まれた身体。その身を包むスーツも天ケ瀬百貨店に入る一流テーラーのオーダーメイド品。静止していれば完璧な王子様である翔の姿をフレームの中央に捉える。

< 91 / 329 >

この作品をシェア

pagetop