御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
見ているだけでドキドキしてしまう。ファインダー越しに一方的に見ているのは美果のはずなのに、至近距離で見つめ合っているように錯覚してしまう。
翔の時間を独り占めしている。まるで彼の恋人になったような不思議な気分を味わいながらシャッターを切る。
――カシャ、と高い音が広いリビングに響いた。
緊張の一瞬を終えると、ようやく小窓から顔を離す。すぐに再生モードにして撮った写真を確認した美果は、思わずほうっと感嘆の息を吐いた。
(芸能人みたい……このまま商品のポスターに使えそう)
最初に抱いたのは少し間抜けな感想だった。だが嘘や偽りではなく、それが美果の素直な感情だった。
これなら『スーツの広告です』と言われても、頬杖をついた左の手首から少しだけ見えている『時計の広告です』と言われても十分に納得できそうだ。
「どうだ?」
「え、えっと……まぁまぁですかね……?」
液晶モニターに釘付けになっていると、組んでいた足をほどいて前のめりになった翔にそう問いかけられた。
咄嗟に『美果の写真の腕』を訊ねてきたのか『被写体である自分の映り具合』を訊ねてきたのかを判断できず曖昧な返事をすると、「なんだそれ?」とくすくす笑われてしまった。なんだか今夜は、翔も楽しそうだ。
撮影した画像を見せるために液晶モニターを彼の前へ向けると、
「へえ、案外綺麗に撮れるもんだな」
と感心された。
声が少し弾んでいたので彼も満足したのだろう。まだまだ勉強も練習も必要な美果の写真でも喜んでくれるならば、彼の挑発に乗って撮影した甲斐があったのかもしれない。