御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 なんて浮かれていると、またも翔から意外な提案をされた。

「秋月、俺にも撮らせろ」

 翔の言葉に一瞬動きが停止する。ゆっくりと顔を上げて翔の目を見ると、そのまま首も傾げてしまう。

「え……何を撮るんですか?」
「お前を」

 端的に告げられてもやはり少しの間は理解が出来なかったが、数秒が経過してからようやく彼の望みを察する。

「見てたら俺もやってみたくなった」

 どうやら翔も、父のカメラで写真を撮ってみたくなったらしい。誰かが使っているものを自分も使ってみたくなるなんて小学生か! と思ったが、悪い気分にはならなかった。

 むしろ、美果が撮ったたった一枚の写真で彼がカメラや写真の世界に興味を持ってくれたのならば、こんなに嬉しいことはない。幼い時に父の写真をみた美果が興味を持つきっかけも同じだったので、なおさら翔の言葉を嬉しく思った。

 いいですよ、と短い返事と共に翔にカメラを手渡す。一眼レフカメラは本体も重たいしレンズを装着するのでさらに重量を感じるが、受け取った翔は重さよりもカメラに興味津々の様子だった。

「どうすればいいんだ?」
「それほど難しくないですよ。この小さい窓を覗いて、右上の黒いボタンを押せばそのまま撮影できるので」

 いくら天ケ瀬百貨店グループの御曹司といえど、インスタントカメラやデジタルカメラで写真を撮ったことぐらいはあるだろう。撮影設定などを細かな調整の必要はあるが、写真撮影の基本的な手順は一緒だ。

 ソファに座ったままカメラの持ち方を確認した翔がファインダーを覗く。その翔に、

「じゃあ撮るぞ」

 と声を掛けられたので、緊張しながら「はい」と返事をする。

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