御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
返事をしてから、ふと先ほど自分が撮影したときの状況を思い出した。
ファインダーを覗けば、視界は撮影しようとしている被写体のみになる。つまり美果がそうだったように、撮影するまでの数秒間翔の視界には美果しか映らないことになる。
そう考えると途端に申し訳ない気持ちになってくる。しかも夜になっても凛々しいスーツ姿を保っている翔とは異なり、美果はストレッチパンツにTシャツという家事がしやすい格好で、とてもお洒落な装いとは言い難い。
撮った写真をプリントアウトするわけではないので、美果の姿が記録されるのはカメラの中にあるSDメモリだけ。それでももう少しましな格好のときに撮ってもらえばよかったと思う。
せめて髪の毛を一度ぐらい撫でて直しておけばよかった。こんなくたびれた姿が翔の目に映っているのかと思うと、それだけで申し訳なさを通り越して猛烈に恥ずかしくなってくる。
「……可愛いな」
「え?」
「いや……ほら、動くなって」
緊張と後悔のあまりどこを見ていいのかわからず挙動不審になっていると、不意に翔が何かを呟いた。
表情や動きには出していないつもりだったが、動揺のあまりつい怪しい動きをしてしまった。だから一瞬、それを指摘されたのかと思った。
美果は聞き返そうとしたが、首を傾げた瞬間にパシャ、とシャッターが落ちる音がした。