御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

「撮れたか」

 ファインダーから顔を離した翔が楽しそうにカメラの液晶画面を確認している。撮影の直前に彼が言った言葉を聞き取れず内容はわからなかったが、翔の興味はすでに別の場所に移っていた。

「撮影したやつはどこで見るんだ?」
「えっと、ここのボタンを押したら……」

 翔に訊ねられたので美果もさっさと思考を切り替える。

 疑問をしまい込むと再び緊張の時間が訪れた。すでに撮影してしまったものをもう一度撮り直してもらうほどではないし、また緊張の瞬間を繰り返すのも恥ずかしい。だからすごい顔をしていたら、後でこっそり消すことにしよう。

 そんなことを考えながら撮影済みの写真を確認した美果は、思わず翔から顔を背けて噴き出してしまった。

「あは、あははっ……!」
「なんだこれ、全然ちゃんと撮れてない」

 美果が笑うと同時に、翔がムスッと不機嫌な声を出す。

 それもそのはず、翔が撮った写真は手ブレとピンボケで大きく歪んでしまっていた。かろうじて被写体が美果だというのはわかるが、ピントは合っていなくてぼんやりと霞んでいるし、画像も全体的に暗い。誰がどう見ても、明らかに失敗写真だった。

「向きが変われば光の入り方も変わりますし、さっきと距離が少し違いますからね。ピントをマニュアルで調節するモードだったので、焦点が合わなかったんですよ」
「そのやり方を先に教えておいてくれ」
「ご、ごめんなさい」

 一応謝罪は口にするが、笑いを堪えるあまり声が震えてしまう。もちろん翔を馬鹿にしているわけではなく、単純に撮れた写真が面白すぎてツボに入ってしまったのだ。

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