御曹司さま、これは溺愛契約ですか?

 心配そうに顔を覗き込まれたので、泣きそうになりながら呟く。顔を上げると翔の顔は「本当か?」と不安そうだったが、大丈夫じゃないのは正座による足の痺れであって、身体は本当に問題ない。翔のおかげで怪我をせずに済んだ。

「あっ、カメラ……!」

 身体は問題ないが、別のことに気付いて視線を下げる。

 二人の間に挟まれたカメラが壊れているのはないかと焦ったが、見たところカメラのバッグに問題は見受けられない。

「よ、よかった! 壊れてない」

 硬く頑丈なケースを一応開いてみると中のカメラは無事だったので、ほっと胸を撫で下ろす。カメラのバッグはあらゆる衝撃や気候変化に耐える必要があるので、かなり頑丈に作られていることを思い出した。

「形見なんだろ? 壊さないようにしろよ」
「はい……ありがとうございます」

 無事を確認した翔に少しだけ叱られてしまう。

 だが彼の言う通りだ。梨果の魔手から逃れるために安全な場所に移動したのに、ここで美果がカメラを壊してしまうようでは意味がない。

 落とさなくてよかった、と安心していると、ふと視界が暗く翳った。

「え……あ、あの……?」

 温かい、と思ったのもそのはずだった。

 暗くなった理由は、翔が突然美果を抱きしめてきたからだった。

 何が起こっているのかわからず困惑する。カメラのレンズを向けられたときよりもよほど挙動不審になってしまう。

「あああ、あの……翔さん……っ!?」
「ん?」

< 98 / 132 >

この作品をシェア

pagetop