家賃滞納の保証にクラスのイケメンを預かりました

1話

○主人公・八木沼千夏(やぎぬまちなつ)の家の玄関先

土下座するヒーロー・山添玲央(やまぞえれお)と、それを引いた視線で見下ろす千夏・母・父の親子三人

・玲央「度重なる家賃滞納、大変申し訳ありません。ついては少しでもその埋め合わせをと思い、本日より大家さんの家で、住み込みにて下働きをさせてさせて頂きたいと思います」

・千夏モノローグ(彼はSNSのフォロワー30万人越えの人気高校生モデル、山添玲央。一体どうして山添君がウチで土下座をする異常事態に・・?)


○学校の教室(休み時間)
 千夏とクラスメイトの女子グループ。千夏の前で友達の一人が手を合わせている。

・友達A「お願い千夏!放課後のカラオケ、山添君にも声かけてみて!」

・千夏「私がぁ?」と呆れ顔の千夏。

・友達A「おねがぁい。隣の席でしょ千夏。自然な感じでさ?」

・千夏「まぁいいけど・・」

 自分の席に戻り、しぶしぶ玲央に声をかける千夏。

・千夏「あのさぁ山添君。放課後みんなでカラオケ行くんだけど、山添君もどうかな?」

・玲央「悪いけど用事があるから」

・千夏「あ、そうだよね」

・千夏モノローグ(二年に進級して同じクラスになった隣の席の山添玲央君は、モデルとして活躍している長身のイケメン。でも誰とも友達付き合いをしない事で有名で、学校内では『孤高の人』とか『氷の王子様』とか呼ばれている。

○廊下を移動する千夏達女子グループ

・友達A「あー、やっぱり駄目だったかあ・・」
・友達B「一年の時から誰の誘いも受けないって有名だもんね。SNSではモデル仲間達と楽しそうにしてるのに」
・千夏の親友・梓(あずさ)「諦めな。うちら程度じゃ相手にされないってことよ」

・千夏「わかってるなら私に声かけさせるのやめてよ!」と怒る千夏の頭を、ヨシヨシと撫でる友達AB。

・友達A「ごめんごめん千夏ぅ。アメちゃんあげるから許して?」

・千夏「子供扱いしてませんか?」

・友人達「だって小さくて可愛いんだもん」の言葉にムッとする千夏。

・千夏モノローグ(身長149センチの私。おまけに顔も平凡プラス童顔で、高校生になった今でも、度々小学生に間違えられる始末・・)

そんな一同の話に幼馴染みの奏介(そうすけ)が割って入ってくる。

・奏介「アズ! ちー! ちょうど良かった。一緒に帰ろうぜ!」

・梓「おー、奏介。あんた達もカラオケ一緒行く?」

・奏介「おー、行く行くー。部活始まったら行けないもんなー」

・友達A 「奏介達はすぐ釣れるなぁ。山添君ワンチャン狙ったけど、サクッと断られたわ」

・友達B「千夏がんばって誘ったのにね」

・千夏モノローグ(親友の梓ちゃんと奏介は幼稚園から一緒の幼馴染。二人ともスポーツ万能でカッコよくて、それぞれ女子バスケとサッカー部のエース。そして私は・・昔から奏介に片想いしていたりする)

・奏介「は? あんな感じ悪い奴誘うなよ。てか、そんなのにウチのちーを使うな」
千夏を引き寄せ親しげに頭を撫でる奏介。千夏は思わず赤面してしまう。

・梓「顔赤いよ、ちーちゃん?」と冷やかす。

・千夏「ちーって呼ぶのやめて!余計に子供っぽいから!」
怒ってそっぽを向いた千夏の視線の先には、一人帰って行く山添玲央の姿が。


○再び玲央が土下座している千夏の家の玄関

・千夏モノローグ(あの氷の王子様がどうしてうちの玄関でこんな事に・・?)

○ダイニングテーブルに座る千夏親子三人と玲央。彼から事情を聞く。

・玲央「父はマグロ漁船に乗るといって出て行きました。これは父からの手紙です」
玲央の差し出した紙には『滞納している家賃は必ず返します。保証として息子を預けますので、奴隷として使ってください』の文字。

・蒼白する親子三人の心の声(令和の時代に奴隷!?)

・玲央「ついては本日よりここで、住み込みの下男として下働きさせて頂きたいと思います。24時間対応可能ですので、掃除洗濯家事全般なんでもお申しつけください。寝袋は持参して来てますので、玄関ででも寝かせて頂きます」

・千夏心の声(下男て何?初めて聞いた・・! てゆうか玄関で寝るって、今どきペットでもそんな扱いうけてないよ?)

・千夏ママ「そ、そんなことしなくても大丈夫よ。山添さんも家賃を払おうと頑張ってくれているみたいだし、十分誠意は伝わったから・・ねえ、お父さん」
・千夏パパ「そ、そうだね母さん」
引いた顔で慌てる二人。

・玲央「しかし・・実は昨日から電気水道ガス止められてまして」

・心の中でツッコむ親子三人(ドMAX貧乏!)

・千夏ママ「ね、ねぇお父さん・・うちで衣食住面倒みてあげないと、この子餓死するんじゃないかしら」
・千夏パパ「そうだな・・僕達が断った結果そんなことになったら・・」
青ざめながら耳打ちして相談する夫婦。

・千夏パパ「分かったよ山添・・玲央君。しばらく君はここで生活しなさい」
その言葉を聞いて、隣でムンクの叫び状態の千夏。


○風呂場。千夏入浴中。

・千夏「最悪だ・・あの山添君と一緒に生活するとか・・チビ童顔の私とか、オシャレと対をなす存在だって見下されてるんだろうな。まさかあの山添玲央が、うちの所有するボロアパートの家賃すら払えない程の貧乏だなんて、そんなの誰も想像してないよぉ・・」
 
 げっそりする千夏だが、しかし何かに気がついた様子。

・千夏モノローグ(私も皆も、山添君は華やかな生活を送っていると思っていた。それは何故か。彼の投稿するSNSでは、モデル仲間とカフェでお茶したりBBQしたり・・そういうオシャレな写真が多いから。それに山添君の持ってるスマホ。あれは最近発売されたばかりの最新モデル。どう考えても十万円以上はするはずで・・)

・千夏「でもライフライン止められるくらい貧乏・・え?SNSのあのオシャレな山添君と、どっちが本当・・?」

・千夏モノローグ(本当に貧乏なのだろうか。もしかして何か他の目的が・・)
 不安な表情の千夏の周囲には(詐欺、闇バイト、緊縛強盗、一家惨殺)などの不穏な文字が浮かぶ。

・風呂から上がり、着替えながら「とりあえずあとでお父さんに相談してみよう・・」と神妙な顔で呟く千夏。すると後ろでドアが開き、びっくり顔の玲央とお風呂でばったりしてしまう。

・玲央「すいません。トイレと間違えました」と頭をさげドアは閉まる。千夏の絶叫が響く。

・千夏モノローグ「とにかく大変な事になりました」



○朝、千夏の家のリビング

・玲央「おはようございます、お嬢様」
と待ち構えていた玲央に引いた視線を向ける千夏。椅子を引いたり食事や飲み物のサーブまでされ、(執事カフェか・・!)と心の中でツッコむ。その後ろで「おはようございます旦那様」と言われた父も飛び上がっている。

・千夏ママ「朝から美少年にかしずかれるの、癖になりそう~」
ソファの上に寝転がり、すっかり自堕落になっている母。

・玲央「ご満足頂けた様で嬉しいです」
母の足をマッサージする玲央。駄目になっていく母に呆れた視線を送る千夏。

・千夏「ねえお父さん、変だと思わない。山添君の持ってるスマホ、最新式のやつだし、本当に貧乏なら買える筈ないよ。何か別の目的があるんじゃ・・」
訝しんで父に耳打ちする千夏。父は頷く。

・千夏パパ「僕の方で少し調べてみるよ」

・後ろからぬっと現れる玲央。
玲央「お嬢様、少し御髪が乱れているようです」
ブローされ、つやつやの髪に仕上げられる千夏。

・玲央「学校まで鞄をお持ちします」

・千夏「もういいからそういうの!学校ではこのこと、内緒にするから絶対に話しかけないで!」
玄関を飛び出す千夏。

・千夏(一体何を企んでるの? 同居なんて絶対に認めないんだから!)




(1話おわり)
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