家賃滞納の保証にクラスのイケメンを預かりました

2話


○学校の教室

・梓「今日髪キマッてんな千夏」
・千夏「アズちゃん・・ちょっと相談があるんだけど」

○屋上へ移動

・梓「家賃滞納の埋め合わせで山添が住み込みの下働き・・? な、なにそれ??」
サバサバ系の梓もさすがに困惑気味。

・千夏「しー!みんなには絶対内緒だよ! てゆうかほとんど保護なんだけどね・・。ライフライン止められてるって言うから」

・梓「さすがに嘘じゃん?」

・千夏「アズちゃんもそう思う?」

スマホで玲央のSNSの投稿をチェックする二人。

・千夏「モデル仲間とBBQ、表参道で高級ランチ、こっちは沖縄だって・・」

・梓「この店のこのパンケーキ3,800円だって!高!」

・千夏「やっぱりとても貧乏な生活してるとは思えないよ。着てる服だってプチプラじゃなくて割といい値段のブランドぽいし」

・梓「じゃあなんでそんな嘘つくの・・」

・千夏「だから怖いんじゃん!」

・梓「最近はないとは思うけど・・昔は芸能界って、結構ヤバめの奴いっぱい居たらしいよ」

・千夏「ヤバめって?」

・梓「例えば・・反社と繋がりあって捕まったりとか」

・千夏「!? 怖いこと言わないでよアズちゃん!」

・梓「い、今はないと思うよ、今は・・」

・千夏モノローグ(やっぱり絶対おかしいよ。一体何を企んでるの山添君)

・梓「あ。ねぇ千夏。これって・・」
梓が何かを見つけ、スマホを覗き込む二人。



○日直の仕事を玲央と二人でこなすことになって、プリントを運ぶ二人。嫌そうな顔の千夏。

・千夏モノローグ(なるべく関わりたくない矢先からこれ)

・玲央「僕が全部持ちますよお嬢様」

・千夏「そのお嬢様ってのやめて!」
くわっと鬼の形相を向ける千夏。

・千夏「そうやって煽てれば簡単に取り入れるって思ってるのかもしれないけど、私は騙されないから! 山添君のSNS見たけど、貧乏そうな生活なんてしてないじゃん!携帯電話だって最新のモデルだし!それ十万以上するでしょ? 貧乏だなんて嘘だよね。どうしてそんな嘘つくの?」

・玲央「あ・・そのSNSとか携帯電話は」

・何かを言いかけた玲央の言葉を遮る千夏。
千夏「てゆうか下働きとか要らないし。家族でもない人がいきなり家に一緒に住むとか、むしろ迷惑でしかないし! 分かったら早く出ていって!」
まくし立てる千夏。玲央は悲しそうな顔で笑う。

・玲央「そっか・・そうだよね。やっぱり迷惑だよね。ごめんね」
先を歩く玲央の淋しそうな背中に罪悪感を募らせる千夏。

・千夏モノローグ(どうしてこっちが悪いことしたみたいな気持ちにさせられなくちゃならないの。嘘ついてるのは山添君の方なのに)


○プリントを職員室に届け終え、教室に戻ってきた千夏。

・梓ほか友人達「帰ろー千夏!」

・梓「マックでも寄って帰る?」
・友達A「ラーメンは?」
・友達B「太るて」

友達と遊びに行く千夏の横で、玲央は今年のミスコン優勝候補という美少女、眞野杏奈(まのあんな)の誘いを断っている。

・友達A「わー、山添君、眞野さんの誘いもあっさり断ってるよ。今年のミスコン優勝候補よ?」
・友達B「あの美人でダメならもうムリだわ」
・千夏「どうせ用事とか嘘でしょ。一般人をバカにしてるんだよ。行こ」
・友達A「え?? 珍しく千夏が毒舌。どした?」
・千夏「別に!」

 首を傾げる友人AB。不機嫌ながら先ほどの玲央の表情を思い出し、罪悪感に苛まれる千夏。



○夜、千夏の家
・千夏「ただいまー」

・千夏ママ「ちー! 玲央君がまだ帰って来ないんだけど・・何か聞いてる?」

・千夏「・・さぁ。知らない」

・千夏ママ「そう・・ご飯食べないのかしら」と心配そうな母の横を下を向いて通り過ぎようとする千夏。するとそこへ父から声がかかる。

・千夏パパ「ちーちゃん。ちょっと来なさい。玲央くんの事で話があるんだ」


○ダイニングテーブルに座る親子三人。

・千夏パパ「申し訳ないとは思ったんだけど、彼の言った事が本当かどうか、アパートの中を調べさせてもらったんだ・・」


○回想・玲央の住んでいたボロアパートで水道の蛇口をひねる父。

・千夏パパ「ライフラインが止められてるってのは本当か・・」

物音に気がつき顔を上げる父。するとそこには、怯えた様子のスーツの男性が。

・謎の男「山添さん・・じゃないですよね。失礼ですが、ここで何を・・?」

・千夏パパ「私はこのアパートの大家ですが・・貴方は?」

・謎の男「大家さんですか!? あの、山添さんはどちらに?何かあったんでしょうか!?」


○アパートの廊下で名刺を差し出す男。株アイビープロモーション・久米島保(くめじまたもつ)と記載されている。

・久米島「玲央君のマネージャーをさせて貰ってます。二年前に街で声をかけさせてもらいまして・・その時携帯電話も持ってないというので驚きました。連絡を取る為に、彼のスマホは事務所から支給してます。SNSのアカウントも、実は運用してるのは玲央君本人ではなく事務所でして。投稿は実際の私生活ではなく仕事の合間に撮った写真で・・まぁ芸能界ではよくあることですが、イメージ作りってやつです」


○久米島の回想・お礼を言う玲央

・玲央「スマホって本当に便利ですね。勉強に使える無料のアプリもたくさんあって。
モデルの仕事、時給も高くてスマホまでお借りできて、凄く助かってます。お陰で勉強に割く時間が取れるし・・僕は奨学制度を利用しないと、大学には行けないから。
久米島さん、あの時僕に声かけてくれて、本当にありがとうございます」
笑顔でお礼を言う玲央。回想終わって再びアパートへ。

・久米島「前向きで素直で本当にいい子で・・。でも突然諸事情で休職したいって連絡が入って、何かあったのかなと思って心配で、様子を見に来ました。玲央君の進学の助けになっているというのなら、続けさせてあげたいんですよね、モデルの仕事・・」



○家のリビングに場転

・千夏パパ「こうなったのも何かの縁だし、僕は、僕たちでできることはしてあげたいと思ってる。彼はまだ高校生だし、まだ保護者が必要な年齢だよ。少なくとも彼のお父さんの状況が落ち着くまでの間は、うちで預かるというのはどうかな?」

・千夏ママ「もちろんよ! 玲央くんを護るのは私達よ! 不遇の美少年萌える!」
ハンカチを手に涙をふき意気込む母。しかし隣で千夏は蒼白している。

・千夏「お父さん、お母さん・・どうしよう私・・今日山添君に、酷いことを・・」

・千夏パパ「そうか。玲央君はアパートに戻ったのかもしれないね。千夏も一緒に迎えに行こう」

・千夏「うん。お父さん」

そのとき千夏はあることを思い出し、父母を呼び止める。

・千夏「お父さん、お母さん。そういえば今日ね・・」




○玲央のボロアパート。電気がつかないので真っ暗。暗闇で膝を抱える玲央。

・玲央「勉強しよ。電気着けなくてもできるし、アプリってほんと便利・・」

暗闇の中スマホアプリで勉強を始める玲央。しかし制限を超えそうという通知が入る。

・玲央「事務所の経費を無駄に使うのはよくない」

画面をダウンさせた玲央。やることがなくて寝袋に入り、何も置かれていないちゃぶ台をぼーっと見つめる。彼の脳裏に思い出されたのは、淋しい記憶。家に帰ると父は仕事に出ていて不在で、ちゃぶ台の上にはラップをかけられた夕飯と、コンビニのカットケーキ、そして「誕生日おめでとう」のメモが置かれている。

するとそこへ、ドアを叩く音がして開けると、千夏パパの姿があり、驚く玲央。

・玲央「旦那様・・」

・千夏パパ「一緒に来てくれないか」



○千夏の家の前。千夏に言われた「迷惑だから」という言葉を思い出し、足を止める玲央。

・玲央「あの・・僕・・」

・千夏パパ「大丈夫だよ、玲央君。君に見てもらいたいものがあるんだ」

戸惑いながら家の中へ入る玲央。リビングの扉を開けると、玲央の誕生日を祝う飾りつけがされていた。

・千夏パパ「千夏がSNSで君が今日誕生日だって情報を見つけてね。皆で準備したんだよ」

 驚く玲央の前には、申し訳なさそうに肩を縮める千夏の姿が。

・千夏「ごめんね山添君・・私なんか色々、勝手に誤解してて・・酷いこといっちゃって」

謝罪した千夏が顔をあげると、そこには涙を流す玲央の姿が。

・千夏「や、山添君!?」

・玲央「すいません。こんな風に誕生日を祝ってもらったことないから、すごく嬉しくて・・」
涙をぬぐう玲央。母は既にハンカチを手に貰い泣きしている。

・千夏パパ「玲央君。君はまだ高校生だ。家賃の埋め合わせだとか下働きだとか、そんな事は考えなくていいんだよ。お父さんの状況が落ち着くまでは、君は千夏と同じ、うちの子として預からせて貰う。安心して過ごして欲しい」

・玲央「ありがとうございます。そんな風に言って貰えて、僕は幸せ者です」

涙を浮かべ身を寄せる四人。

・千夏モノローグ(こうして玲央君は、うちの家族として受け入れられることになりました)



○別日の千夏の家のリビング。学校帰りの千夏と玲央の前で、礼服を着込み慌ただしく準備する父と母

・千夏ママ「あっ!おかえり二人とも! 悪いんだけどママの親戚の急な不幸で、これから宮崎で葬儀に出なきゃならないの。帰りは明日の夜になるけど、二人とももう高校生だし、一日くらい二人でお留守番できるわよね?」

・千夏心の声(玲央君と一晩二人きり・・? もう高校生だしって・・高校生だからこそ、心配な事もあるのでは?)
衝撃を受ける千夏の横で、玲央はいつも通り「任せてくださいママさん。家事は全部僕が対応します!」と自信ありげに答えている。

・千夏ママ「良かったわぁー玲央君がいてくれて。女の子一人じゃなんとなく心配だものね」

・千夏心の声(ま、まぁ大丈夫か・・玲央君はそんな事する人じゃないし、何より玲央君みたいなモテ男子が、わざわざ私みたいな見た目小学生の女に手なんか出さないだろうし)


○テーブルに玲央の作った料理が並ぶ

・玲央「味はどうだった? ちーちゃん」

・千夏「あ、うん。すごい美味しかったよ! ありがとう。片付けは私がやるね」

・玲央「いいよちーちゃん。僕がやるからゆっくりしてて」

・千夏「いやでも、全部玲央君にやって貰ってばかりじゃ悪いし」

お皿を片付けようと立ち上がった千夏。しかし皿に伸ばした腕を玲央に掴まれてしまう。

・玲央「ちーちゃんにはもっと別のことをお願いしたいんだけど」

 驚いて顔をあげると、すぐ間近に迫った玲央の顔。彼は妖しい笑みを浮かべ千夏に迫る。

・千夏「べ・・別のこと・・て??」

・玲央「こういう機会が来るのをずっと待ってたんだよね。今夜は寝かせないよ、ちーちゃん」

・千夏モノローグ(れ・・玲央君が豹変した!? やっぱりヤバい人なの? 助けてお母さん!)

壁際まで追い詰められ、青ざめる千夏。


(2話おわり)

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