家賃滞納の保証にクラスのイケメンを預かりました

3話

○千夏の家のリビング。玲央に迫られ、壁際まで追い詰められる千夏。


・玲央「今夜は寝かせないよ、ちーちゃん」

・千夏「ね、寝かせないって・・何言ってるの玲央君。(何かは分からないけど)そんなのダメに決まってるじゃない」

・玲央「どうしても駄目?」

・千夏「あ、当たり前じゃない玲央君・・こんなの良くないよ」

・玲央「じゃあ一回だけでもいいから。どうしてもちーちゃんとしたいんだ」

・千夏心の叫び(シたい!?)

 真っ赤になって玲央を突き飛ばす千夏。

・千夏「ダメったらダメ! 一回だけならいいとか無いから!」

・玲央「そっか・・僕一回もやったことないから、ちーちゃんとやるの楽しみにしてたのにな。・・あれ」

 玲央の指さした先には、テレビ台に収納されたゲーム機が。


○ソファでマリオカート的なゲームに興じる二人。どんより顔の千夏と顔を輝かせる玲央。

・玲央「あーまた負けたぁ。ちーちゃん上手いなぁ」

・千夏「それはどーも・・」

・玲央「親が居ないときにこっそりゲームして夜更かしするシュチュエーションとか、ちょっと憧れてたんだよね。うちはゲームなんて無かったし、それにずっと兄弟が欲しいと思ってたから・・今はちーちゃんがいてすごく楽しいよ」
曇りのない輝く笑顔で言う玲央。

・千夏「あ、そうですか・・それは良かった」
照れて苦笑いする千夏。

・千夏心の声(玲央君はほんとピュアだな・・一瞬でも疑った自分が恥ずかしい。それにゲームで曲がるとき自分の身体もめっちゃ傾いてるし。なんか尊い)

・玲央「あと憧れてたのは・・恋バナ! ちーちゃんは誰か好きな人いるの?」

思わず奏介の顔が頭に浮かび赤面してしまう千夏。

・千夏「い・・いないよ!」

・玲央「・・いるんだね?」

・千夏「いないいない!! ぜったいいない! そそそういう玲央君はいるの!?」

・玲央「いないよ。そもそも僕、友達いないし」

・千夏「そういえば玲央君、どうして友達作らないの?」

・玲央「交際費が捻出できないからだよ」

・千夏心の声(悲しい!)

・千夏「でも玲央君、モデルの仕事もしてるよね。ウチにいる間は生活費の心配は無いわけだし、これからは友達とも遊びに行ってみたら?」

・玲央「駄目だよ。こうして面倒を見てもらってるだけでも申し訳ないのに。稼いだお金は少しでも滞納してる家賃に補填しないと」

・千夏心の声(良い子すぎる!)

千夏は玲央の着ている服に着目し、何かを思いつく。

・千夏「玲央君のその服・・結構お高めのブランドの服だよね」

・玲央「そうなの? 事務所から支給されたやつだからよく知らないんだ。なんか私服で着て下さいって送られてくるみたいで。有難いよね」

・千夏心の声(腐ってもインフルエンサー!)

・千夏「着なくなった服とかフリマアプリで売ったら結構お金になるんじゃないかなぁ」

 スマホで相場を検索する千夏。

・千夏「ホラ! この服とか状態の良いものなら一万円以上で取引されてる!」
千夏の突きつけたスマホの画像を見て、驚愕する玲央。

・玲央「服が・・一万円・・?」
青ざめる玲央を見て苦笑いする千夏。


○玲央の部屋で洋服を広げる二人。

・千夏「・・これで出品完了、と。売れたら通知が来る筈だからそしたら教えるね」

・玲央「ありがとう、ちーちゃん」

・千夏「玲央君て本当にSNSとか見ないんだね」

・玲央「うちはWi-Fiなかったからギガ数節約ってのもあったけど・・」
言った後、神妙な表情になる玲央。

・玲央「少し怖いんだ。人は人、自分は自分だし、他の人と比べるのは違うって思ってる。でも他の人達の楽しそうな姿とか煌びやかな写真を見てたら、自分は不幸だって思ってしまうような気がして・・。そんなのその人の生活の一瞬を切り取っただけで、本当だとは限らないのにね。事務所にSNS運用してもらってる僕が一番分かってる筈なんだけどさ・・」
微妙な表情で笑った玲央を見て、千夏は切なくなってしまう。玲央を盛り上げようと笑顔を向ける千夏。

・千夏「売れるといいね! あ、ゲームの続きやろっか!」

・玲央「うん。ありがとう、ちーちゃん」
千夏の気遣いを感じて優しい笑顔になる玲央。

・千夏モノローグ(せめてウチにいる間だけでも、玲央君が他の皆と同じように、友達と遊んだりとかできるといいな・・)


○学校帰りの千夏。電車を降りたところで奏介に声をかけられる。

・奏介「おーい、ちー!」

・千夏「あれ? 奏介!? 部活は?」

・奏介「栗センが出張で居ないらしくて休み。マックでも寄ってくか?」

・千夏「う、うん」
頬を染め嬉しそうに奏介の後をついていく千夏。


○商店街を歩く千夏と奏介。八百屋でおつかいをする玲央と遭遇。

・奏介「あれ? あれって山添玲央・・だよな? おーい、山添!」
蒼白する千夏に気付かず玲央に声をかける奏介。こちらに気づいた玲央に向けて、奏介の後ろで千夏が腕で×を作り、「言うな」と合図している。

・玲央「八木沼さんと・・えっと」

・奏介「設楽奏介な。お前ってこの辺に住んでるの?」

・玲央「うん、そうなんだ。・・最近引っ越してきたばかりで」

・奏介「ふーん、そうなん? じゃあまた近所で会うかもな。ちー、お前知ってた?」

 奏介の問いにブンブンと首を横に振る千夏。

・奏介「俺ら今からそこのマック行くけど、お前も来る?」

・玲央「せっかくだけど遠慮しておくよ。邪魔しちゃ悪いし、それにこれから用事があるんだ」

・奏介「ふーん・・ネギ持って?」

・玲央「・・・・一旦家に置いてから」

去っていく玲央の後ろ姿を見送る二人。

・奏介「嘘だなありゃ。相変わらず付き合いわりぃ奴」

・千夏「そ、そうだね・・何か深い事情があるのかもしれないけどね」

・千夏心の声(そのうち家に出入りしてるところを誰かに見られたりするんじゃ・・気をつけないとな)

一方、玲央は連れ立ってマックへ入っていく奏介と千夏の背中を振り返る。

・玲央「・・いいな」
淋しげな顔で呟いた後、踵を返して一人歩き出す玲央。

・玲央モノローグ(前に比べたら十分幸せな境遇なのに、どんどん欲張りになっていく。手に入らないものを望めば望むほど、心が貧しくなると分かってるのに・・)


○マックで話す千夏と奏介

・奏介「あいつでも八百屋で野菜買ったりとかするんだな。意外だわ」

・千夏「そりゃ買うでしょ。普通に人間だし」

・奏介「あいつってなんか人間味ないじゃん。生活感無いし、いつも涼しい顔で作り笑いして腹の底みせねぇっつーか? 大体さ、モデルやってて成績も学年一位とか、それだけで人間味ねーじゃん」

・千夏「す、凄いじゃん。陰で凄く努力してるのかも」

・奏介「凄いのは凄いけど、俺にゃ理解できねぇわ。周りにマウント取る為だけに生きてるってカンジ? 何が楽しいんだろーな。ほんと、上っ面だけのつまんねー奴」

・千夏「玲央君はそんな人じゃない!」

思わず反論してしまい、ハッとする千夏。驚く奏介と目が合い、気まずく視線を逸らす。

・千夏「と、隣の席だからたまに話すけど・・全然そんな嫌な感じの人じゃないよ。優しいし、周りを見下してるとかじゃ、全然ないし・・」

・奏介「お前まさか・・あいつのファンだとか言う?」

・千夏「ち、違うよ! ただ嫌いじゃない人の陰口とか言いたくないってだけ!」

・奏介「ふーん・・まぁいいけど。でもな、好きになったところでお前じゃ絶対相手になんかされねーぞ。身の程をわきまえろ、小・学・生」

子供の様に千夏の頭を撫でる奏介に、顔を引き攣らせる千夏。

・千夏心の声(そんな風に言わなくてもいいじゃない! 小学生とか・・好きな人にそんなこと言われたら、余計に気になるよ・・)



○夕食後に千夏の部屋で勉強する千夏と玲央(玲央は千夏ママから家事はいいから千夏の勉強見てやってと言われている)
つい鏡に映った自分の姿を見つめてしまう千夏。

・玲央「ちーちゃん、分かんないとこあった?」

・千夏「え?」

・玲央「その問題はね、こっちとこっち、二つに分けて考えるとやりやすいよ。そうするとこっちは、この公式を当てはめやすいでしょ?」

・千夏「あ・・ほんとだ」

いつもよりテンションの低い千夏を気にかける玲央。

・玲央「元気ないね」

・千夏「え?」

・玲央「もしかして、あのあと奏介君と何かあった?」

・千夏「べ、別に・・何もないよ」
否定しながらも、「小学生」と揶揄った奏介の言葉が脳裏にチラつく千夏。

・玲央「ちーちゃんの好きな人って・・もしかして奏介君?」

・千夏「ち、違うよ!」
真っ赤になってしまった千夏の反応に、図星を悟る怜央。追及はせず笑顔で流す。

・玲央「そっか。違うか」

・千夏「そうだよ! 何言ってるの玲央くん!」

ごまかそうとスマホを開いた千夏。するとフリマに出品した品が売れている。

・千夏「玲央君、売れたよ! このお金は玲央君の好きに使おうよ! これで友達とも遊びにいけるね!」

自分の事のように嬉しそうに笑う千夏に、ほっこり癒される玲央。玲央は正座に姿勢を正し、隣の千夏に向き直る。

・玲央「それじゃあちーちゃん。僕と遊びに行って貰えませんか?」

・千夏「・・え?」

・玲央「ちーちゃんは僕の初めての友達だから。そのお金で遊びに行くなら、初めての相手はちーちゃんがいい」

真剣な表情で見つめられ、ドキドキしてしまう千夏。

・千夏モノローグ(これは友達としての誘いなのに。玲央君があんまり真剣な顔をするから、不覚にもドキドキしてしまった)


(3話おわり)
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