家賃滞納の保証にクラスのイケメンを預かりました

5話

○千夏の家の玄関先。千夏にスマホを突きつける奏介。

・奏介「お前、なんだよこれ」

・千夏「だから街でたまたま会って少し話しただけなんだってば」
げっそり顔で答える千夏。

・奏介「ほんとかよお前?」
・千夏「ほんとだってば! みんな勘繰りすぎ!」

しかし奏介は玄関に置かれていた玲央の靴を見つける。

・奏介「誰の靴だこれ?」

・千夏「そ、そりゃお父さんのでしょ〜」

・奏介「お前の父ちゃん足もっと小さくなかった?」

・千夏「じゃ、じゃあ誰のだろ〜? 私は知らないな〜」
しどろもどろになる千夏を怪しいと思った奏介は、家の中へ踏み込む。千夏の制止を聞かずにリビングのドアをバーンと開け放つ奏介。焦った千夏だが、そこにはいつも通り夕食の支度をする母と、席に座る父の姿が。

・千夏ママ「いらっしゃーい、奏ちゃん。久しぶりねぇ」

・千夏パパ「少し見ないうちに大きくなったな」

・奏介「おばさん、おじさん・・こいつ最近、家に男連れ込んだりしてない?」

・千夏ママ「うちのちーちゃんが? 残念だけどさっぱりよ。ねぇお父さん」

・千夏パパ「ちーにはまだそういうのは早いよ」

・奏介「そっか・・てゆうか、なんで四人分?」

食卓に並ぶ四人分の皿を見つけてツッコむ奏介。内心ドキーとする三人。

・千夏ママ「今日アズちゃんが来る予定だったのよね、千夏?」

・千夏「そ、そうそう! でも来れなくなったって、さっき連絡が」

・奏介「ふーん・・なら俺が食べてってもいい?」

内心「ええ!?」と青ざめる三人。

・千夏ママ「い・・いいわよぉ〜、全然!」

・奏介「ラッキー。今日かーちゃん仕事で遅いから、カップラーメンでも食っとけって言われてたんだよな」

・千夏ママ「そ、そっか・・ちょうど良かったわぁ〜。じゃあサクッと食べちゃいましょうか! 今日見たいテレビがあって、早めに片付けちゃいたいから!」

四人で食事をする傍ら、間続きの隣の部屋へ心配そうな視線を送る千夏。隣の部屋の暗がりの中では、身を潜める玲央の姿が。隣のリビングでは、みんなの会話が響いている。

・玲央心の声(これからもここでの生活のこと、隠さなくちゃならないのか・・嫌だな・・)

一人膝を抱える玲央。

・千夏モノローグ(プチ騒動を起こした疑惑の投稿のことはすぐに忘れ去られ、いつもどおりの日常が戻ってきました。そしてやって来たのは・・中間テストです)



○夜、キッチンで洗い物をしている母の所へ、玲央が顔を出す。

・玲央「ママさん、プリンター借りてもいいですか?」

・千夏ママ「ええ、いいわよ」

・玲央「ありがとうございます」

 礼をして隣の部屋にあるプリンターへと向かう玲央。母が手をふきふきしながら覗くと、何やら楽しげに資料をコピーする玲央の姿が。傍らに置かれたクリップ止めされた資料の表紙には、「ちーちゃん苦手克服問題集」の文字。ホロリとハンカチを目に当てる母。

・千夏ママ心の声(玲央君・・本当に健気ないい子だわ。それにイケメンだし。このまま千夏と結婚して本当にウチの息子になってくれないかしら。そしたら孫のイケメン確率格段アップ!)


○学校の終了ホームルーム。

・先生「来週から中間テストが始まります。部活も休みに入りますが、皆遊びに行ったりせずに、しっかり勉強するように」

帰り支度をする千夏と梓のところへ、奏介がやってくる。

・奏介「ちー! あず! テスト期間中、毎日残って勉強しね?」

その声に人知れず固まってしまう玲央。

・奏介「てゆーかノート見せて?」

・梓「まーいーけど・・この三人じゃ成績上位者いないし、あんまりアテにならなくね?」

・奏介「・・まーね」

・梓「千夏もやってくでしょ?」

・千夏「あ、うん」

・千夏心の声(勉強は玲央君に教わった方が効率良さそうだけど・・でもいつも教えて貰って邪魔するの悪いしな。それに・・奏介と絡めるの、部活ないこの期間だけだし)

・奏介「図書室行く? それともウチの教室でやる?」

・梓「教室でいんじゃね。図書館のが混んでそうだし」

連れ立って出ていく三人の後ろで、暗い顔で帰り支度をする玲央。一人小さく呟く。

・玲央「ちょっと張り切りすぎたかな・・」



○放課後の教室

・千夏「だからね、ここはこうして・・」

・奏介と梓「どうした、ちー!? なんか勉強できる様になってる!?」

・千夏「えへへ・・最近ちょっと頑張ってるんだよね。まぁ私は二人と違って部活もないし、当然ちゃ当然ていうか」

照れる千夏の横で、(こいつ山添に勉強教わってんな?)とピンとくる梓。

・奏介「じゃあこっちは? 俺これよくわかんない」

・千夏「あー! えっとね、これは・・」

・千夏モノローグ(自分でもいつもよりデキてるのを感じる。今回は赤点回避どころか結構いいとこ狙えるのでは? ありがとう玲央君!)

・奏介「なー。明日の土日も集まって勉強しねー? 俺一人だとやる気でなくてさ」

・千夏「うん、いいよー!」

・梓「お菓子もってこー」



○日曜日の午前中。勉強をする玲央の部屋に差し入れのコーヒーとお菓子を持っていく母。

・千夏ママ「玲央くーん。コーヒーいかが?」

・玲央「ありがとうございます、ママさん」

・千夏ママ「今日は午後から撮影だっけ?」

・玲央「はい。夜ご飯は出ると思うのでいらないです」

・千夏ママ「そう。明日からテストなのに大変ね。コーヒーここ置いとくから、適当に休憩してね」

・玲央「はい。ありがとうございます、ママさん」

ゴミ箱に捨ててある千夏用の問題集を発見する母。

・千夏ママ「ねぇ玲央君・・いつも千夏に勉強教えてくれてありがとうね。あの子、奏ちゃんとアズちゃんに凄いって褒められたって、嬉しそうにしてたわよ。
でも・・玲央君の勉強の邪魔になってない?」

・玲央「全然、そんなことないです。いつもお世話になってるのに僕に出来ることはこれぐらいしかありませんし・・。それに僕も・・楽しいので」

・千夏ママ「そう。迷惑じゃないなら良かったわ。いつもありがとう、玲央君」




○夜、家に帰宅する千夏。

・千夏「ただいまー。あれ? 玲央君は?」

・千夏ママ「おかえり。今日は撮影で遅くなるんですって」

・千夏「ふーん。今日のご飯なに?」

・千夏ママ「ちーちゃん、その前にちょっと。これ渡しとくわ」

母から差し出されたのは玲央の手作り問題集。

・千夏「これ・・」

・千夏ママ「玲央君の部屋のゴミ箱に捨てられてたの、勿体ないから拾っちゃった。多分あんたがアズちゃん達と勉強してるから、必要ないと思ったのね。せっかくあんたの為に使ってくれたんだから、お礼だけでも言っておきなさいよ」

・千夏「う、うん・・」



○千夏の部屋

部屋に戻って早速問題集をめくる千夏。

・千夏「私の苦手な所ばっかり集めてくれてる・・」

・千夏モノローグ(玲央君・・なんでこれ、ゴミ箱に捨てたんだろう・・。どんな気持ちで・・?)



○学校。中間テストが行われる風景。→テストが終わり帰り支度をする教室。

・千夏心の声(できた・・! 過去イチできた!)

千夏の教室に奏介が走ってくる。

・奏介「どーっだった! ちー、アズ!」

・梓「まー、ぼちぼち」

・奏介「ちーに教わったとこバッチリ出たわ! ありがとな、ちー! 今日もやってくだろ勉強!」

奏介に笑顔を向けられるが、千夏はそれを断る。

・千夏「ごめん。今日はちょっと用事あるから、私は先に帰るね」

・奏介「え・・」

・千夏「ごめんね。また明日もテスト頑張ろーね!」

・奏介「ああ・・うん」

手を振る千夏を複雑そうな表情で見送る奏介。千夏が帰った理由が玲央であることに気がついている梓は、それを神妙な表情で見つめる。

・千夏モノローグ(こんなに出来たのは玲央君のお陰だから・・今日は家に帰って、玲央君にお礼を伝えたいんだ)



○玲央の部屋をノックする千夏。ドアを開ける玲央。

・千夏「玲央君、私ね。テスト過去イチ出来たよ。・・これのお陰」

玲央の手作り問題集を見せる千夏。それに気づいてあたふたする玲央。

・玲央「え? それ? え?」

ゴミ箱を確認し、ゴミ箱からそれが無くなっている事に気がついた玲央は、顔を赤くする。

・玲央「あれ・・?」

恥ずかしそうに赤面する玲央に、笑顔を向ける千夏。

・千夏「すっごく役に立ったよ! 今日、一緒に勉強してもいい?」

嬉しそうに笑う玲央。

・玲央「・・うん。もちろんだよ、ちーちゃん」

はにかみあう二人を覗き見ていた母はガッツポーズを決める。

・千夏ママ心の声(がんばれ玲央君! 私は奏ちゃんより玲央君派よ!)


○放課後の教室。二人で勉強する奏介と梓。

・梓「・・で? あんたはいつまでそうやって不貞腐れてるわけ?」

梓の前にはムスっと不機嫌そうな顔の奏介。

・奏介「なんだよちーの奴、付き合い悪いな。せっかく部活ない期間なのによ。先週からテスト期間中勉強して帰ろうって言っといたのに」

・梓「・・家の用事とかだってあるでしょ」

まだムスッと頬杖をついてる奏介を見て、溜息をつく梓。

・梓「あんたってさぁ・・結局ちーのコト好きなの?」

狼狽える奏介。

・奏介「す、好きって・・そんな訳ねーだろ! あんなチビ」

・梓「あんたさ・・そうやって意地はってると、本当に誰かに取られちゃうかもよ」

・奏介「は? なんだよそれ・・てゆうかあんな色気のない小学生みたいなの好きになる男なんかいねーだろ」

・梓「まあいーけど・・忠告はしたから」

再びノートに視線を落とす梓と、複雑そうな表情の奏介。


(5話おわり)
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