イノセントラブ
「ユキちゃん!おはようございます!今日もご予約完売ですよ♪」

店の扉を開けると、受付に立っている笑顔の店長。

時刻は17時だけど、この業界での挨拶は『おはようございます』から始まる。

『ユキ』は3ヶ月前に入店が決まった時、店長が付けた源氏名だ。
雪のように白い肌だから、と。

「ユキちゃんは凄いなぁ。たった3ヶ月でNo.2だよ。うちの店は箱ヘルの中でも採用基準が高いけど、面接で一目見た時にこの子は売れる!と思ったよ。僕の目は正しかった」

「ありがとうございます。これからも頑張ります。今日もよろしくお願いします」

目尻を下げながら微笑む店長に軽く会釈をして、自分のプレイルームへ向かう為に狭い廊下を歩く。

箱ヘルは店内の中にプレイルームという6畳ほどの狭い部屋がいくつかある。

部屋の中はシングルサイズのマットレスと大人2人入れる小さなシャワールームがあって、客を射精させるのが私の仕事。

未経験で入店した私は、笑顔を絶やさない聞き上手な『ユキちゃん』を演じて3ヶ月でNo.2になった。

1、2、3、4、5…。狭い廊下に並ぶドアには番号が貼ってある。

今日の私のプレイルームは6番部屋。

もう少しで6番部屋に着く時、ドン、と肩がぶつかりよろけた。

自然と視線はぶつかった先へ向かう。

視線の先にいたのはNo.1のミオさんだ。

私と目が合ったミオさんは唇を少し尖らせて、腕を組みながらプイッと4番のプレイルームに入っていった。

ミオさんとは挨拶程度しかした事がないけれど、あからさまな態度の原因はわかっている。

No.1を死守したい。No.2の私が邪魔なんだろう。

6番部屋に入り暖房を調節したあと、私服から店のコンセプトであるベビードールに着替えた。

軽くグロスを塗り直して、ふと壁に備え付けられている鏡で自分を見た。

ベビードールからのぞく真っ白な肌に、生まれつき少し茶色いロングヘア。
ナチュラルメイクに塗り直したグロスが艶めいている。

『うちの店は採用基準が高いから未経験者は基本的に採用しないんだけど、君は即採用だよ!可愛い!絶対に売れる!ナンバー入りも夢じゃないよ、僕が断言する!源氏名は、そうだね。ユキにしよう。色白で可愛いから。ユキちゃん、これからよろしくお願いします!』

面接時に店長が言った言葉を思い出す。

ナンバーなんて、くだらない。
私は、生きる為に働いているだけなんだ。
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