「すれ違う時間とコロナの狭間で」



焼肉の約束がキャンセルされたことに少し落胆していた康二だったが、理恵と二人で食事に行くことで気持ちを切り替えようとしていた。待ち合わせの時間一時間前、突然電話が鳴る。画面に表示されたのは理恵の名前だった。
「もしもし?」
電話の向こうから理恵の声が聞こえる。「康二さん、驚かないでね。真子ちゃん、今うちに来てて、焼肉に行くって!」
一瞬、康二は耳を疑った。キャンセルしたはずの真子が突然参加するという展開に戸惑いながらも、彼の心には期待が膨らんでいた。「本当に? じゃあ、すぐに行くよ!」
その言葉を残して、康二は急いで支度を整え、理恵の家へと向かった。焼肉の夜が、予想外の展開で始まろうとしていた。焼肉店に到着すると、真子はすでに席についていた。理恵の隣で、いつも通りの穏やかな笑顔を浮かべていたが、康二の心臓は早鐘を打つように高鳴っていた。真子に会うのは久しぶりだった。思い返せば、彼女との再会を夢見ていた日々が何度あっただろう。思いがけず彼女が来ると聞いて、康二はどうしても伝えたい言葉があることに気づいていた。料理が運ばれ、しばらくは楽しい会話が続いた。理恵も交えて笑い合い、時間はゆっくりと過ぎていく。しかし、康二の心はずっと告白の瞬間を待っていた。ふと、理恵が席を立ち、トイレに向かう。その瞬間、店内に二人きりの空気が漂った。康二は深く息を吸い、真子に向き合った。
「真子、実はずっと君に伝えたいことがあったんだ。」彼の声は少し震えていたが、覚悟を決めて言葉を続けた。「僕は君のことが好きだ。ずっと前から。」
真子は驚いた表情で康二を見つめた。彼女の瞳には、何か言いたげな感情が映っていたが、すぐに視線をそらし、少し照れたように微笑んだ。
「康二、そんなふうに思ってくれてたんだね。でも…」
その言葉を聞いた瞬間、康二は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。真子が何を言うのか、なんとなく予感がしていた。
「ごめんね、今はまだそういう気持ちには応えられないかも。」
その答えに康二は少しショックを受けたが、真子の誠実さを感じた。彼女は優しく続けた。
「でも、こうやってまた話せるのは嬉しいよ。友達として、もっといろんなことを話せたらいいな。」
康二は一瞬、失望を感じたが、彼女の笑顔を見て、その言葉の裏にある真意を理解し始めた。今はただ、再び繋がれたことが何よりも大切だと。
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