大嫌いな王子様 ー前編ー
次の日の日曜日。
日曜だというのに、今日もせっせと仕事に励んでる伊織。
「ねぇ伊織、買い物ついてきてよ」
「なに買うんですか?」
仕事中は律儀に敬語で話す伊織。
「ん〜。なんか服とか欲しい」
「えっと、今日15時に上がりなのでそれからでもよければ」
「マジで!じゃあ行こう」
やべー。すげー嬉しい。
「そいえば暁兄は?」
「暁斗くんは飯田さんとお仕事で出られてますよ。夕方ぐらいには戻るって言ってました」
「ふーん」
クンッ
束ねてる伊織の髪をイタズラで引っ張った。
「わぁ!なにするんですか!」
顔を真っ赤にして怒ってる。
そんな表情も可愛く見える。
やっぱりこの気持ちは、すき なのかな?
「ん〜わからない…」
「??なにがですか?」
ーーーーーーーーーーー
15時過ぎ。
「お先にあがります」
「伊織さん、お疲れ様です」
牧さんたちに挨拶をして、部屋で着替える。
和希くん、なに買いたいのかなー?
あ、暁斗くんに買い物行くこと、メッセージ入れとこ。
「和希くん、お待たせ」
「全然待ってないよ」
どこに行くのかな??
「服屋さん、どのへん行きますか?」
私全然詳しくない。
「んー、とりあえず百貨店あたりいこっか」
百貨店!!
さすが。
季節は6月に入り、暑くなってきた。
もうすぐ梅雨もやってくる。
「学校はどう?」
楽しんでくれてるかな?
「なんも思わない」
さ、冷めてる!!!!
「友達は出来た?」
「テキトーに話す奴なら何人かいる」
よかった。
「和希くん、その人たちがきっと友達だね」
「…なんで?」
「えへへ。私の勘」
和希くんの性格だと、たぶんいなかったらいないって言うと思うんだよね。
だから、なんだか少しだけ安心した。
「伊織ってさ、可愛いね」
「へっ!?」
なに!?いきなり!!
突然の【可愛い】に思わず照れてしまう。
そして焦る。
こんな平凡以下の私が、可愛い…ですと!?
「なんかわかんないけど、今そうやって見えた」
・・・・・
「和希くん…早めに眼科行った方がいいです」
「なんでだよー」
天然坊やの和希くんは、たまに突拍子もないことを言うからビックリする。
「…なんかさ、暁兄ってなに考えてるかわかんないよな」
「…どうしたの?急に」
「いや、別に」
和希くん……?
「んー、そうかな?最近は顔にもよく出るなぁって思うようになったよ。たまに顔赤くしたり、困った顔したり。色んな表情が見えるし、見てあげてよ」
「色んな表情の暁兄…?」
「…って!!私が偉そうにごめんね!!」
なに偉そうに言ってるんだ、私!!!
「あれー?和希じゃん」
後ろから声がして振り向くと、なにやら柄の悪そうな人たち。
「なに?」
やっぱり知り合いなの!?
「あの日以来だな〜。あれだけ嫌がっていたお坊っちゃんに戻ったってわけか」
あの日…?
まさか、和希くんを見つけたあの日のことかな?
「…伊織行くよ」
「あ、うん!」
柄の悪そうな人たちを無視して歩いていく和希くん。
「俺らを無視って…偉くなったじゃん、和希クン?」
グイッ!
「きゃっ!!」
なぜか私の腕が引っ張られ、口を抑えられてその人たちに捕まってしまった。
「なにすんだよ!伊織を離せ!」
「ならお前が来い。ちゃんとケジメつけなきゃだよなぁ?」
怖い。
それに意味がわからないけど、嫌な予感しかしない。
だから、私は必死に首を横に振る。
和希くん、絶対ついていっちゃダメ!!
「わかった。伊織は関係ない。早く離せよ」
和希くんがこっちにやってきた。
ダメだよ!!
ぷはっ!
抑えられてた口はやっと解放されて、話せるようになった。
「和希くん!ダメだよ!!」
「伊織、すぐ戻るから先に帰ってて。俺から誘ったのにごめんな」
「和希くん!!」
私は離してもらい、自由になった。
追いかけようとしたら
「絶対ついてくんな」
振り向いた和希くんに念押しされ、その表情が怖くてビクッとしてそれ以上進めなかった。
だ…だけど……
私は電話をかけた。
ダメだ…暁斗くん、繋がらない。
メッセージを打とうとしたけど、和希くんたちが角を曲がって見失いそうになってしまった。
「よしっ」
メッセージを打つのをやめて、なんとかバレないように和希くんたちの後をつけることにした。