大嫌いな王子様 ー前編ー

バキッ!!

ドサッ!!!


入り口の方からいきなり音がした。


何が起きたかわからず、顔を動かそうとしたら体に感じていた重みが急になくなった。



え…


「テメェ…殺す」


なんで…

目の前に暁斗くんがいる。


「う……。テメェが暁斗か。俺の仲間を随分可愛がってくれたようだな」


暁斗くんがリョージという奴の胸ぐらを掴んで今にも手を出しそうな勢い。


「伊織様!和希坊っちゃま!」


飯田さんまで……



飯田さんが私に駆け寄る。
そして、私の腕を掴んでいた2人に殴りかかった。


「飯田さん!!私は…だ、大丈夫…ですから…」

ヤバイ、声も手も……ううん、全身が震えてる。



バキッ!!
ドカッ!!

暁斗くんが相手を殴り蹴った。



「暁斗くん!!」




ふわっ

暁斗くんが自分のスーツの上着を私にかけてくれた。



「遅くなって…ごめん……」


暁斗くんが抱きしめてくれる。
そこから伝わる体温にホッとしてさらに涙が出る。


「暁…兄……」

和希くんの声が聞こえた。

「和希、お前…」



ズキッ!

「いた…!」


「どうした!?」


抱きしめてくれた力で、背中に痛みが走った。


「あ、ううん…。さっき背中をちょっと殴られちゃって…」



スッ

暁斗くんが立ち上がって、倒れているリョージという奴に近づく。



ガシッ

そして、今度は頭を掴んだ。



「いおに手出しやがって…マジで許さねぇ」



ダメだ、止めなきゃ。


「飯田、いおと和希をここから出せ」

「かしこまりました」


え!?


「飯田さん!暁斗くんを止めてください!!」


「いいえ、坊っちゃまの命令ですので」


そんな…!!




ガンッ!


ひぃっ!
飯田さんもケンカに強いのか、和希くんを捕まえてた2人を一瞬で倒した。



「俺は行かない」

「和希坊っちゃま!暁斗坊っちゃまの言う通りに」

「これは俺の問題だから!」


〜〜!!もう!!!



バチンッ

私は和希くんにビンタをした。



「バカ和希くん!!こんなボロボロなんだから!!自分を大切にしてよ!!」

なにが……


「なにが…“俺の問題”よ!!ちゃんと頼ってよ!!!」


自分でもなにを言っているのかわからない。

わからなさ過ぎて涙が止まらない。



「暁斗くんも!!一緒に帰りましょう!!もうケンカはダメ!!!」


お願い…
もう危険な目に遭わないで。


まだ震える体、それに背中に走る痛み。
それでも今止めなきゃ。

ゆっくりとだけど、暁斗くんに近づく。


「暁斗くん、お願い。そばにいて」


暁斗くんの腕をぎゅっと掴む。




暁斗くんは掴んでた相手の頭を離した。





ドサッ


暁斗くんがお札の束をその場に投げた。


ひっ!!
なかなかの量のお札!!
その量に驚いて失神しそう。


「手切れ金だ。二度と俺らに関わるな。お前らの個人情報は全部把握してるからな。次はねぇぞ」


周りを見る。

5人の人たちは、みんなグッタリしている。


怖かった。
本当に。

今も背中が痛いし、怒りも恐怖もたくさんある。


でも、この人だってどんな理由があったとしても



「和希くんと一緒にいてくれた期間は…ありがとうございました」


絶対最低な人たち。
それはわかってる。


和希くんを利用していたかもしれない。


それでも、伝えることは伝えなきゃいけない気がする。



「でも、もう絶対関わらないでください。…まっすぐ生きてください」


私が何様…って感じだよね。



ふわっ

「きゃっ!」

体が浮いたと思ったら、暁斗くんがお姫様抱っこをしてくれた。


「背中痛くないか?」

「だ、大丈夫です!!」

今度はこの抱っこのせいで、緊張がすごくてドキドキしてきた。




「…悪かった……」

空耳かもしれない。


でも、確かに小さかったけどリョージという人の声が聞こえた気がした。
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