大嫌いな王子様 ー前編ー
帰りの車の中。
暁斗くんはなにも言わず、ただ私の手を握ってくれていた。
和希くんもなにも話さない。
「飯田、医者の手配は?」
「済んでおります。2名呼びました」
「わかった。サンキュ」
家に着くと、牧さんが血相を変えて玄関を飛び出してきた。
「和希坊っちゃま!伊織さん!ご無事でなによりです!!ですが、お怪我が……!」
「牧さん、いおを連れてって医者をいおの部屋まで呼んでくれますか?和希は俺が連れてくんで」
「お任せくださいませ!」
「暁斗くん…」
ポンッ
暁斗くんが私の頭の上に手を置く。
「後で部屋に行くから休んでろ」
「うん…」
私は牧さんと一緒に部屋に向かった。
ーーーーーーーーーー
「暁兄、俺…」
「まずは医者に診てもらうぞ。話はその後だ」
「うん……」
部屋に行くと、昔からお世話になってる先生がいてすぐに診てくれた。
「骨折などはないですね。打撲が何ヶ所かあるので、しばらく湿布を貼り様子を見ましょう。安静にしてくださいね」
「急に呼んですみませんでした。ありがとうございます」
「いえいえ。暁斗坊っちゃまも和希坊っちゃまも我が子のような存在ですから。だからこそ、もうこのような怪我がないよう気をつけてくださいね」
「和希にしっかり言っておきます」
俺もペコッと一礼をし、先生は帰っていった。
しばらく沈黙が続く。
暁兄とふたりきり。
「あのさ暁兄、俺…」
「ごめんな、守ってやれなくて」
なんでだよ
「なんで暁兄が謝るんだよ!?」
俺が全部招いたことなのに。
「1年前も今回も、俺はお前を守れなかった」
絶対殴られると思ってた。
キレられまくると思ってた。
なのに、そのどれも違って暁兄は謝ってる。
「俺が…ごめんなんだよ。謝らないでよ」
俺が勝手にこの家に嫌気がさして、暁兄に劣等感を持って
俺は逃げた。
「お前の変化は薄々気づいてた。でも、あの頃の俺は今より力もなくて父さんにも戦えなかった。そのせいでお前に辛い思いをさせたよな」
「それは暁兄もだろ。暁兄の方が父さんからのプレッシャーに…」
そう。
昔から頭の良かった暁兄は、父さんからの期待も強くて英才教育まっしぐらだった。
友達と遊んでる所を、今も昔も見たことがないぐらい。
「俺が必ず母さんがいた頃に戻すから。だから、安心してこの家にいてくれ」
結局何も出来ず、俺はずっと暁兄に頼ってばっかり。
「俺は…なにも出来ないままだな……」
「そうか?お前運動系得意だろ?陸上ちゃんとやれば?」
「暁兄、覚えてんの?」
「小学校の運動会のリレー、毎年1位だったの羨ましかったんだけど」
暁兄が笑った。
また…こんな風に話していいんだな。
やべ…嬉しくて涙出てきた。
家を出て帰ってきてから、自分の気持ちを言えず暁兄からも聞かれないから、どうしたらいいかわからない自分がいた。
結果、なんかずっと気を遣ってた気がする。
家なのに、なんも気持ちが安らがない。
そんな時、支えだったのが伊織だった。
「もうあんな奴らとは関わるな。なにかあったら我慢せず俺に何でも言え。いいな、絶対だぞ」
「うん。わかったよ」
「とりあえず今は休め。あと、明日の学校も休みの連絡を入れておく」
暁兄が部屋から出ていく。
「なぁ!」
ずっと思ってた。
「暁兄は…なんでなにも聞かないんだよ!?」
俺に興味がないんじゃないかって。
はぁー…っと暁兄がため息をついた。
グイッ
あれ?
夢かな、これ
俺、胸ぐら掴まれてない?
一応、、仮にも怪我人だよな
なによりこんな雰囲気でこの状況はあり?
「あのー…暁兄…?苦しいんですが」
あ、キレてるなこの顔
「いい加減にしろよ?なんで聞かねぇだと?…聞きたいに決まってんだろ!」
暁兄の顔が赤くなる。
「俺だって…わからねぇんだよ!どう聞いたらいいか…無理矢理は嫌だし……」
あぁ、伊織の言うとおりだな。
「ぶはっ!暁兄、顔赤いって!」
「あ?調子乗ってんじゃねぇよ」
俺がわかってないこと、いっぱいだったんだな。
「また聞いてよ、俺の話」
「あぁ。聞いてやる」
わぁー。すげー上から。
「暁兄、とりあえず離してくれない?苦しいんだけど」
胸ぐらを掴まれるのは、今日が最後にしたい。