大嫌いな王子様
あーーーづーがーれーだーーー
お風呂に入って一気に疲れがやってきた。
時給3千円は甘くないな…
あれからも21時まで働いて、キモ野郎との無言の食事タイムを終え今に至る。
あの食事タイムも時給に入れて欲しいわ!
無言なのになんで一緒に食べるのよ。
お風呂から上がって部屋に戻ると、お母さんからの着信があった。
電話しなきゃ!!
プルルルー…
「もしもし!伊織!?」
「お母さん!?」
たった2日振りなのに、もう長い間聞けてなかったぐらい感動してしまう。
「大丈夫!?元気にしてる?」
「うん、大丈夫だよ。お母さんや晴は?」
「お母さんたちはもちろん大丈夫よ。なんだか…お母さんたち引越しさせてもらって…でも伊織に迷惑かけてるんじゃないかと思って」
キモ野郎がどんな風にお母さんたちに話したかがわからない。
だけど心配かけたくない。
「大丈夫だよお母さん。何も心配しないで」
コンコンッ
誰だろ?
「ごめんお母さん。またかけ直すね」
私は急いで電話を切り、ドアを開けた。
「ごめん、電話中だった?」
「あっいえ…」
そこにはお風呂上がりのキモ野郎がいた。
「何かご用ですか?」
「これ渡すの忘れてた」
そう言って差し出されたのはスマホ。
「これは…」
「これからはそれ使え。今のは明日解約しておく」
「はい!?」
キモ野郎は部屋へ戻ろうとした。
「ちょっと待って!」
なんとか引き止め、話を続ける。
「あの…私節約しなきゃなんです。これ、すごく嬉しいけど……いくらぐらいですか?」
「なんで節約?それにそのスマホはタダだから気にしなくていい」
「タダ!?そんな訳ないです!月々かかりますよね!?」
「金額知らねーからマジいらない」
これが…お金持ちなのか・・・!!
「なら使えません」
「なんで?」
「これ以上甘えられません」
「さっきの節約ってどう言う意味?なんで今も節約すんの?」
やっぱり住む世界が違い過ぎるんだ。
「お母さんたちに生活費をきちんと渡したいし、分割払いになりますが…引越し代やマンションの家賃とかちゃんとお支払いしたいんです」
そう、だから私はもっともっと働かなきゃなんだ。
「俺、引越し代とか何も請求してないけど?それにお前の母親たちの生活費はこっちから渡してるから何も心配いらない」
「それがダメなんです!どうしてここまでしてくれるんですか!?まだ出会って数日とかなのに」
キモイし超絶ムカつくけど、私に多く言わずしてくれていることがたくさんあるのはわかってるつもり。
だから、少しずつでもちゃんと返したいの。
「俺もわからない」
「え?」
「なんであんたにここまでしてるのか、正直自分でもわからない。だけど、あんたは何も気にすることない。今のまま仕事頑張ってくれたらいいから」
「それは答えになってないです」
「命令。そのスマホを使えよ。あっあと」
あと?
「俺からの電話には2コール以内に出ろ。メッセージは1分以内に返せ」
うーわ、出たよ
超絶俺様性格。
キモさ満開。
「これ破ったら時給半額に減給な」
「うそっ!?」
「まじ。だから必死になれよ。“俺専属のメイドさん?”」
ヒラヒラ〜と手を振って部屋へ戻っていくキモ野郎。
やっぱり、時給3千円は甘くなんかない。