大嫌いな王子様 ー前編ー

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とうとうやってきました、暁斗くんのお誕生日!

飯田さんや牧さん、和希くんたちにお願いして
あえて「おめでとう」の言葉は夜まで我慢してもらうことにした。

午後のデートに向けて、朝の仕事も気合いがより入る。


「ねぇ伊織〜!俺も行きたいんだけど」

「すみません和希くん。今日はデートをしたいので」


髪をわしゃわしゃとされ、ボサボサになった。


「和希くん!ボサボサになったじゃないですか!」


「なんかムカつくから」

「なんですかそれ!」



ポコッ

後頭部になにかが優しく当たった。



「朝からうるさい、お前ら」

「暁斗くん!」


「和希、いおの邪魔すんな。お前今日、家庭教師来る日だろ?」

「もう来なくても俺は余裕だよ」

「ふざけんな。期末もボロボロだったろ。この夏でしっかり取り戻せよ」

「ちぇーっ」


家出をしていた1年ちょっとの間の勉強を取り戻すべく、ちょっと前から家庭教師をつけている和希くん。



ポンポンッ

頭を撫でてくれて、そのまま仕事部屋へ戻っていく暁斗くん。

それだけできゅんとしてしまう。





仕事を終わらせて、急いで部屋に戻って支度をする。


暁斗くんにいつか必ず渡したい返す分のお金とは別で必死に溜めた貯金。
その貯金でプレゼント代、今日のデート代、そしてみっちゃんにコーディネートしてもらった服を買った。

私がこんなことを出来るようになる日が来るなんて…


これも全部暁斗くんのおかげ。

だから、少しでも感謝の気持ちも伝えられるように
今日を楽しんでもらえるように頑張りたい。


玄関に13時で待ち合わせ。


私はいそいそと12:45あたりに玄関に向かう。

牧さんと飯田さんがいた。



「牧さん!飯田さん!今日はワガママを言ってほんとに申し訳ありません。お時間をいただき、ありがとうございます!!」

私は深々と一礼をした。



「やめてください伊織さん!とんでもないです!私たちもとっても嬉しいんですよ」

「そうですよ、伊織様お顔をお上げください。どうか暁斗坊っちゃまと素敵な時間をお過ごしください」


うるっ…
最近私は涙腺が弱い。




「いお、待たせたな」

王子様の登場。


うぉっ!!
なんか一段とかっこよく見えるのは私だけ!?

少しラフな感じで…でもオシャレで……かっこいい。



「いおもちゃんと【オシャレ】してんじゃん」

褒めてくれた!
嬉しい!!


「似合ってるかな?」

「いつもよりマシ」


いや、やっぱり王子でもなんでもない。
デリカシーがない、キモ野郎だ。
私よ、初心を忘れちゃいけない。



スンッ
「やっぱりキモ野郎だ」

「あ?ケンカ売ってんのか?」


いつものノリに笑けてくる。
牧さんや飯田さんも笑ってる。


グイッ

私は暁斗くんの手を繋ぎ、引っ張った。


「牧さん、飯田さん行ってきます!」

「「行ってらっしゃいませ」」





ーーーーー


さすが7月後半。
梅雨も明け、暑さ全開。
少し歩くだけで汗がふきだす。



他愛ない話をしながら駅に向かい、電車に乗る。

【デート】してるんだなぁ。


周りの女の人たちからの視線がすごい。
みんな暁斗くんを見てる。

私も周りに負けじと暁斗くんをジッと見る。



「…なに?」

「えぇ!?」


見てることがバレてしまった。

暁斗くんはドア側に立って景色を見てたから、バレないと思ったのに。


「あはは!なんでいおが驚いてんの?お前が俺を見てたんだろ?」


あぁ、神様。
もしかして今日は私の誕生日だったんじゃないでしょうか。。

暁斗くんの笑顔を見ると、幸せな気持ちになる。



「んで?どこ行くんだよ」

「着いてからのお楽しみです♡」


「…チッ」


喜んでくれるかなぁ。
楽しんでくれたらいいなぁ。




最寄駅に着いて少し歩くと、目的の場所に着いた。


「遊園地?」

「うん!行きましょう!」


チケットも先に買ってあるんだよね。
こんな大金使うの初めてで、手が震えたけど。



人気の遊園地。
だけど平日だからか、空いていてラッキー。


「暁斗くん、なにから乗りたい??」


珍しく暁斗くんがキョロキョロして落ち着きがない様子。


「あー…そうだな、あのゴーカートみたいなのは?」

「よし!それにしよう!」
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