大嫌いな王子様 ー前編ー
私が中1になった頃だった。

それから、お母さんが朝から晩まで働いて私たちを育ててくれて
体壊してしまって…


この内容を和希くんに話してしまった。
引かれてないかな。

なぜか…話せた。
最初はバレたくないと思ったのに。

恥ずかしい話なのに。



ぎゅっ
拳を握りしめる。




「…最低な父親だな。ウチとは違った最低さ」



和希くん、暁おとのこと嫌いって言ってたもんな。。




「引いてない?」

「なにが?」

「私のお父さんの話…」

「あぁ。引いてるよ」


ガーーーーンッ!!!
やっぱり!!??

話すんじゃなかった。。



「…だよね。ごめんね」


「なんで伊織が謝ってんの?てか、引いてるのは伊織の父さんのことな。伊織にはなにも引いてないよ」

「そうなの…?」

「そもそも、なにも引くことがないじゃん」


うわ、、、
なんか嬉しい。。。


「そっか…。ありがとう…」



わしゃわしゃと和希くんが頭を撫でてくれた。



「伊織は笑ってなきゃ〜。俺は笑顔の伊織が大好きだよ」


「和希くん、ほんとにありがとう」


「んー、伊織わかってる?」

「え?なにを?」


和希くんが私のほっぺを触る。



「俺は伊織が大好きだからね。だからひとりで悩んじゃダメだよ」

 

なんだかいつものふざけてる和希くんじゃない。
なんだろ…この感じ……



パッと手を放した和希くん。

「今はズルイな。やめとこーっと」


「???どうしたの??」


「なんもない。ちょっとは気持ち楽になった?」


あ!!

「う、うん!!」

今、お父さんのことしばらく考えてなかった!


「ならよかった〜」


和希くん…私の気持ちを紛らわせようとしてくれたのかな。


「和希くん、オヤツ用意します」

「マジ?ラッキー!アイス食べたい」

「わかりました」



暁斗くんとお父さん…なにを話してるんだろう。





ーーーーーーーーー


「急なご案内を失礼しました」

「いえ、私が急に訪ねて申し訳ございません」


飯田といおの父さんのやり取りの後、俺が部屋に入る。


「飯田、ありがとう。少し席を外してくれ」

「かしこまりました」


いおの父さん。
いおがここにやってきた時に飯田が調べた資料の中に、4年ほど前に蒸発とあったな。

俺からは触れることじゃないと思って今まで話してこなかったけど、あのいおの様子だと…



「なぜこちらまで来られましたか?」


「伊織や晴たちが元気か気になりまして…」


ふーん。。



「お母さんや晴くんが住んでる所はご存知ですか?」

「いいえ。この前偶然伊織を見かけただけなので」


なら、まだ大丈夫か。



「僕が言うことではないですが…伊織さんには“ただ会いに来た”だけでしょうか?」


「…それはどう言う意味でしょうか?」


「お父さんならわかると思うんですが」



お互い探り合い。



「…私が出て行った時のことをご存知なんですね」


「いいえ。きちんとは知りません。伊織さんからも聞いてないですし。でも、だいたい察しはつきます」



「…お恥ずかしい限りです」



俺が出しゃばることじゃないってことは、さすがにわかってる。
でも、いおを傷つける奴は親であろうが許さない。




「あの頃…私リストラにあいましてね。家族にどう話したらいいのかわからなかった…家族にー…」


バンッ


「ノックもせずすみません!」


いおが部屋にやってきた。



ーーーーーーーーーー


いきなり部屋に入ってしまった。
だって…勢いつけなきゃ、ずっと部屋に入れなかったんだもん。



「お父さん…私お父さんのこと許してないからね」


「…あぁ」

「一体…どんな気持ちで……ここに来たのよ。あれから私たち家族がどんな気持ちでー…!」


お母さんが私や晴のために貯めてくれていたお金や、生活費など全部持っていきなり消えたお父さん。
あの日を私は一生忘れられないと思う。
どうしたらいいか…どう生きていけばいいのかわからなくなった。


だけどそれよりも辛かったのが…



「あの日に持っていったお金を返そうと思って持ってきたんだ」


お父さんはそう言って目の前に少し分厚い封筒を出した。


「許してほしいとは思ってない。ただ、これはもらってほしい」



私…


「お金…そりゃもちろんキツかったよ。ヤバかったよ。だけど…それよりもなにも言わず急にいなくなったことが1番辛かったのに……」


急にいなくなった。
私たち家族のことはどうでもよかったんだって思ったら、絶望感が半端なくてたまらなかった。
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