大嫌いな王子様 ー前編ー
「無理を言ってお時間を作っていただき、すみません」
「伊織様…良いお話ではありませんね?」
「……暁斗くんたちには今こうしてることはバレてないですか?」
「はい、大丈夫でございます。恐らく和希坊っちゃまはすでに寝ていて暁斗坊っちゃまはお風呂かと思います」
よかった…
「実は…今月末ここを出てお母さんたちとアパートに引っ越そうと思っています。…というか、引っ越しはもう決めました」
「伊織さん!?どうして急に!?なにかご不満などございましたか!?」
「とんでもないです!!ここでの暮らしは私には幸せ過ぎて…ずっと皆さんに甘えてばかりになっていました。ここに住ませてもらってお母さんや晴のマンションまで用意していただいて…私は甘えてばかりでした。ちゃんと自立しないとと思いまして…ご迷惑をかけてばかりなのに、このようなやワガママまで申し訳ありません」
これは暁おとのせいとかではなくて、すでに私自身の問題。
だけど、暁斗くんにバレないように確実にこの引っ越しをやりとげなきゃ暁斗くんと離れなきゃいけなくなっちゃう。
それは絶対に嫌。
「私共はご迷惑と思ったことは一度たりともございません。伊織様は皆実家にとって…いや、皆実家など関係なくここにいていただきたいです」
飯田さん…
「ありがとうございます。とても嬉しいです…。でも、、お願いです。わかってください」
下を向き、手をぎゅっと握った。
「伊織さん…」
「牧さん、お仕事についてなのですが…お仕事も今月いっぱいにしていただいてもよろしいでしょうか?本当に申し訳ありません。。」
「お仕事まで!?伊織さん、なにがあったか仰ってください」
「お話出来る時がきましたら、きちんとお話させてください。今はどうか…」
どうか…わかってください。。
「かしこまりました」
飯田さんがそう言って、私の頭をポンポンとしてくれた。
「暁斗坊っちゃまに見られたら怒られてしまうかもですが、今は許してください」
飯田さんの言葉の意味がわからなかった。
「今はこれ以上深くは聞きません。伊織様の仰る通りにいたしましょう。…ですが、これだけは守ってください」
「はい。なんでしょうか?」
「坊っちゃまたちを含めて、私たちはいつも伊織様の味方です。ひとりで悩まず、必ず私たちを頼ってくださいね」
「そうです。私たちはいつも味方です」
飯田さん、牧さん…
こんな風に言ってもらえて、感激で涙が出そう。
でも、泣かない。
もっと強くならなきゃ、暁おとに勝てない。
「はいっ!ありがとうございます!」
それからの半月はあっという間で、仕事が休みの日はお母さんたちの荷造りの手伝いに行ったりした。