大嫌いな王子様
「伊織、大丈夫?」

「う、うん」


それからかけ直してくることもなく、意味わかんない。



療養をするようにとアイツに言われたらしく、パートを辞めていたお母さん。

アイツ、そこまで…



「お母さん、お給料渡すからね」

「大丈夫よ。それなら暁斗さんに返してあげて。お母さんも少ししたらもう一度パートを探すつもりだから」


そうだよね…


「今日は久しぶりに3人でご飯食べましょ」

「うん!」

「わーい!お姉ちゃん一緒〜!!」



久しぶりの3人でのご飯。
お母さんのお料理。


嬉しいことだらけなのに、なんでか頭の片隅に引っかかるアイツのこと。



「あらっもうこんな時間。泊まっていく?」

スマホを見ると21時を回っていた。


相変わらず、キモ野郎からの連絡はない。



「ううん、帰るね」


ほんとなら絶対泊まってた。

だけど、なんか気になるの。
胸騒ぎがする。


「夜遅いけど、大丈夫?」

「うん、飯田さんが迎えに来てくれるから」

「そう。それならよかったわ」


飯田さんには帰る前に連絡欲しいって言われてたけど、しないことにした。


「じゃあまた来るね」

「お姉ちゃん、今度は一緒に寝ようね」

「うん!約束ね!」


私はマンションを後にした。




あてなんかない。


勇気を出して、私から電話をかけてみる。


プルルルルー…

何回コールをしても出ない。




別にいいじゃん、あんな奴のことなんか。

キモイんだから。
ウザイんだから。



初めて出会った時を思い出す。


また、あんなケンカとかしてるんじゃ・・・

なんの根拠もないのに不安が大きくなっていく。




私はバイト帰りに会った路地あたりを目指して走り出した。




「はぁはぁ…」

いるわけないか。

ってか、こんな簡単に見つかるわけもないか。



夢中で走っていたせいか、気づけば路地をさらに奥に来てしまい薄暗い場所に来てしまった。



怖い。。


どうしよう、引き返そうか。

私の考えすぎだったんだろう。




ガシャーーーンッ!!


奥の方からシャッターに何かぶつかったような強烈な音が聞こえた。



「ひっ!なに!?」



奥に見える倉庫みたいなところ。

あそこから?




なんだろう。
怖いのに今行かなきゃって頭が言ってる。


アイツがいる気がするんだ。




恐る恐る、その倉庫に近づく。
近づくにつれ、怒鳴り声が近くなってくる。

半分開いているシャッターのところから、そーっと中を覗く。




「暁斗、いい加減にしろよ!」

「それはテメーだろ?早く吐けって、アイツの居場所を」


暗くて見えにくいけど、あれはキモ野郎だ!!

キモ野郎が誰かの襟元を掴んで、今にも殴りかかりそう。


周りには倒れてる人がたくさん

ヤバイ!!
なんとかしなきゃ!!


地獄絵図やん、これ!!




「あっ…!」

キモ野郎の後ろから鉄の棒?みたいなのを持ってる奴がゆっくり近づいている。



そいつがその棒を振りかざした。



「危ない!!!!!」


バンッ!!

私は無我夢中で倉庫に入り、持っていた学校の鞄をそいつにぶつけた。




「はぁはぁ…」

「いってぇー…」


なんとか防げた!?



「…あ?なんでお前がここにいんだよ」

「それはこっちのセリフだよ!あんたなにしてんの!早く帰るよ!!」


私はキモ野郎の腕を掴んだ。



カタカタ…
あ、私手が震えてる。



だって怖いんだもん。。


「いお…」




グイッ!

「いたっ…!」


ドサッ!!
鞄をぶつけた奴に腕を引っ張られ、そのまま床に倒された。



「調子乗んなよ、このアマ…」

そいつが私に馬乗りになり拳を振りかざす。



殴られる!!

私はぎゅっと目を閉じた。




バキッ!!!

「コイツに手出すな。ってもう出したな」


痛くない。。

そーっと目を開けると、私の前にキモ野郎がいて私を殴ろうとしてた奴は倒れている。



「まだ足りねーんだな、俺が相手してやるよ」

そう言ってキモ野郎がそいつに馬乗りになり、殴りかかろうとした。




「ダメ!!」

私はガシッと、腕を掴んだ。


「離せよ」


私は必死に首を横に振る。


「マジ邪魔だな、どっか行け」


絶対行かない。

今離れちゃダメ。


絶対ダメって思うから。



「お前いい加減にー…!」


「暁斗くん!ダメです!!」


振りかざしていたキモ野郎の腕から力が抜けた。



「お願いです…一緒に帰ってください」

あー、ヤバイ。
手だけじゃなくて足も震える。


それもこれも、このキモ野郎のせいだ。




涙が出てくる。


だって、すごく怖いんだもん。
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