大嫌いな王子様 ー前編ー

それからというもの、勉強時間がダンス時間に変わり、よりハードな毎日になっている。

どうやらクリスマスイブの日に、ダンスのコンテストがあるらしい。


あと10日だよ!?
無理に決まってんじゃん。



「お前ほんとにセンスねぇな」

「うるさいわね!これでも必死でやってるんです!」


もうすぐ24時を回ろうとしている。



「ちょっと休憩してから、またやるぞ」

「えぇ!?何時までするの!?」

「お前が出来るまで」



なんで・・・


「わっ私、なんでそこまでしなきゃいけないんですか!?コンテストで賞を取りたいなら、もっと上手い人と組んだらいいじゃないですか!」


あっ、私…なんかダメなこと言っちゃった気がする。
だっておかしいじゃん。
なんで私がそもそもペアなの?
巻き込まれてるだけなんだけど。




「…そうだな。無理矢理させてる俺が悪いな」


あれ…いつものように言い返してこない。



「もういいよ。悪かったな」

そう言ってキモ野郎は練習室から出ていった。




わっ私が悪いのか…?

「意味わかんない…」


なんで、あんな悲しそうな顔するのよ。




ガチャ

「伊織様、遅くまでお疲れ様です」

「飯田さん」


飯田さんも遅くまでお疲れ様です。



「伊織様、夜分遅くで大変恐縮なのですが少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「話しですか?はい…」


なんだろう。


「ありがとうございます。では、よろしければ先にご入浴くださいませ」

「ありがとうございます」


私はお言葉に甘えて、先にお風呂に入った。


お湯に浸かってる間、頭に浮かぶのはキモ野郎のさっきの悲しそうな表情。


あんな顔をさせてしまった。


いや!
私は日々もっと振り回されて、暴言吐かれまくってますけど!!



ちゃぷんー…


「なんなのよ…」



お風呂から上がり、髪を乾かし終わると飯田さんが迎えに来てくれた。



「よろしければダイニングでお話ししてもよろしいでしょうか?」

「はい。飯田さんや私の部屋でも大丈夫ですよ?」

「ありがとうございます。ですが、それは坊っちゃまに怒られてしまいますので」

「そうなんですね」



夜中のダイニングルーム。

そっか!リビングではないのね。
アパートの頃はリビングとかなく、台所と畳の部屋が2つだったから全然わからない。


「お飲み物はいかがしましょうか?」

「お茶で大丈夫です。ありがとうございます」

「承知いたしました」


飯田さんってなんでも出来る人なのかな。



コトッ

「お待たせいたしました」


温かい緑茶を出してくれた。


「美味しいー…」


すごく香ばしくて、だけどまろやかで。。

ここで飲ませてもらう物は、なんでもすごく美味しくて贅沢になりそうな自分がたまに怖くなる。



「坊っちゃまは、伊織様のその自然な笑顔や振る舞いに惹かれておられるんだと思います」


ゴフッ!!!

「あっつ!!!」

「大丈夫ですか!?伊織様!!」



ひっ惹かれてる!!??
飯田さんの突然の言葉に動揺し過ぎて、飲んでいたお茶を吹いてしまった。


「こちらを!」

「すっすみません」


恥ずかしい。。
飯田さんにもらったタオルで顔や服を拭く。



「驚かせてしまい、申し訳ございません。惹かれてるというのは、異性とかの意味ではなく、人としての意味でございます。言葉足らずで失礼いたしました」


「いえ!全然です!!」

で、ですよね〜。
なんだか急に恥ずかしくなってきた。



「少し話が逸れますが、坊っちゃまはもう長い間ここにおひとりで住まわれています」


こんな広いお屋敷にひとり・・・


「ご両親やご兄弟は?」

「奥様は4年前に亡くなられました。旦那様は仕事が多忙の為、年に数回しか帰ってこられません」


“奥様がいらっしゃった頃はーー…”
ふと、牧さんとの会話を思い出した。


「誰かといようとせず、ひとりが多かった坊っちゃまが伊織様に出会われて少しずつ変わっていっているように見えるのです」
< 19 / 139 >

この作品をシェア

pagetop