大嫌いな王子様 ー前編ー


「牧さん、いおは?」

「伊織さんは坊っちゃまの朝食を作られてから、今日は急がれるそうでもう出て行かれました」


「ふーん…」




暁斗くんが朝食を食べている頃



「伊織様!そのステップが甘いです。もっと歯切れ良く!そして優雅に!」


「わーん!キモ野郎の方が優しいってどゆことー!?」


むっちゃスパルタの飯田さん。

あれから3時間寝て、5時起きでダッシュで朝食作りと朝の掃除。

そして6時半から家を出る8時前までダンスレッスンを飯田さんにお願いした。



あかん、朝から吐きそう。



「伊織様、ここまでになさいますか?」


そんなわけないじゃない


「やります!教えてください!」


キモ野…いや、アイツを驚かせてやるんだ。

少しでも何か出来ることをー…



「伊織様!動かす足が逆です!」

「やっぱもう嫌〜!!」



——————————————


「次の問いを…阿部、答えなさい」

「Zzz....」

「おい、阿部。寝てるのか?」

「Zzz....」


あーあ、伊織爆睡だよ。

「あとで職員室に来るように伝えておきなさい」

「はい」


朝からのハードレッスンで授業中はもちろん爆睡。

そして、あとで日直の子に呼び出しを聞いてこってり絞られる。



そもそも、ダンスパーティーさえなければ‼︎

いや、違う!
自分で決めたことなのに、またアイツのせいにしようとしちゃってた。


私は首をブンブン横に振りながら、廊下を歩く。




ドンッ!


「わっ!ごめんなさい!」

前を見ていなかったせいで、人にぶつかった。


「いや、俺こそごめん。大丈夫?」

顔を上げると、少し背が低めの男の子。

同い年…かな?
でも、見たことない。


「大丈夫です」

「あっ、でも鼻血出てるよ」


え!!??
鼻の下を触ると、手に血が付いた。


「うわっ!」

恥ずかしいー!!


「鼻打ったかな!?保健室行こ!」

「いや、全然大丈夫ですから!すぐ止まるんで。では!」

私は恥ずかしくてその場をあとにした。

「あの子って確か…」





「はい。あんた女子ならティッシュぐらい持っときなよ」

「ありがと、みっちゃん。私女子力とかないから」


結局なかなか鼻血は止まらず、教室に戻ってみっちゃんにティッシュをもらった。



「あれからどうなの?ダンス、はかどってんの?」

「んー、ステップの意味が未だにわかんなくて。そもそもさぁ、なんでダンスパーティーとかあるの?」


「いや、それは知らんわ。優聖学園に聞いて」


私は鼻にティッシュを詰めた。



「それで授業受けるの?」

「うん。なんか変?」

「…私、あんたのそういう所好きやわ」


次の授業の科学の先生がチラチラと私を見てる気がしたけど、別に私寝てないし問題ないよね?


「鼻に問題あるんよ」


みっちゃんが心の中でツッこんでいたようだ。




放課後。

よし、帰るぞ。


ヴーッヴーッ

おわっ!
あれだけ偉そうに言われたのにほぼ鳴らないという噂のスマホが鳴っている!


「もしもし」

「今どこ?」

「まだ教室ですが」

「2分で門まで来い」


プーッ


なんなのよ…
怒りでスマホの画面、割ってしまいそう。


「みっちゃん、またね」

「頑張れ〜」


2階の教室から靴箱へダッシュ。
そして、そこから門まで引き続きダッシュ。



「お勉強お疲れ様でした、伊織様」

車の外で飯田さんが待ってくれていた。


「お迎えありがとうございます」

そして、後部座席のドアを開けてくれる。



「1分53秒」

プチンッ


「お迎えとか…頼んでませんけど?」


「今朝…なんでいなかったんだよ」

「え?」

「朝…1人だったし」


なによ…
寂しかったとか言うの?



「朝からお前の顔見なくて清々しかった」


3秒前の私の思考回路を壊したい。


「あーそれならよかったですね。明日からもそうしましょうか」


やっぱり嫌な奴



ぎゅっ

キモ野郎が私の手を握った。(ムカつく時はやっぱりキモ野郎呼びが優先的になる)

ななな、何!?


「でも明日からは、ちゃんといろよ」


あ、この人はやっぱり優しい人なんじゃないか

温かい手
優しい瞳
穏やかな声


綺麗な整った顔


勘違いしそうになる。




「暁斗くん、あの…」

「今日は仕事が立て込んでるから部屋の掃除はいいわ」

パッと手を離し、私の声に被さるように言った。



「まさか、またケンカとか…」

「しねぇよ。年末近づいてて忙しいんだよ」


そういえば、どんな仕事をしてるんだろう。
だって私と同じ高1だよ?



「じゃあ牧さんたちのお手伝いをします」

「いや、いい。今日は休め」

「お給料欲しいので働きます」

「日給はやる」

「働いてないのにいりません」

「…ったく。お前はー…」


やっぱり根は優しいんだと思う。

お母さんが亡くなる前の暁斗くんはどんな感じだったのか…なんだかすごく気になる。



「では、こういうのはどうでしょう?私の手伝いを伊織様にしていただくのは?」

「は?飯田の手伝い?」

「はい!します!なんでも!」

「よろしいでしょうか?暁斗坊っちゃま」


あれ?飯田さんが暁斗って呼ぶの初めて聞いた。



「…無理させるんじゃねぇぞ」

「承知しております」
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