大嫌いな王子様
ガバッ!!
「今何時!?」
私寝てしまってた!?
てか、なんでベッドにいるの!?
ベッドのそばにある机に、お茶のペットボトルが置いてあった。
【起きたら飲め】のメモと一緒に。
絶対暁斗くんだ。
私ダンスの練習してて…それから記憶がない。
なんで暁斗くんがお茶を置いてくれたんだろう。
そんなことより!!!
時間を確認すると、朝4時半だった。
なんとかセーーフ。
お風呂も入らず寝てしまっていたので、急いでお風呂に入りアイツの朝食の準備に向かった。
「おはようございます。飯田さん、今朝も少しレッスンをお願いできますか?」
「伊織様、おはようございます。暁斗坊っちゃまより、今朝は朝食をご一緒にとお申し付けがありまして」
「でも…!」
今日はアイツの学校でダンスレッスンがある。
「伊織様なら絶対大丈夫です。あとは坊っちゃまと頑張ってください」
まだまだ、絶対足を引っ張っちゃう。
朝食の時間。
「いお。今日のダンスレッスン、いいから」
「え?」
私は食べかけていた人参をポロッと落とした。
「行儀悪いぞ」
「ごっごめんなさい」
だって、急にそんなこと言い出すから。
「悪かったよ、無理矢理付き合わせて」
もう…ほんとにコイツは……
「行きます!っていうか、やります!!ダンスレッスンも、パーティも受けて立ってやるんだから」
悪魔なのか、天使なのか。
今度は暁斗くんがブロッコリーをポロッと落とした。
「お行儀が悪いですよ」
私はドヤ顔で言ってやった。
「ふーん」
ガタッと暁斗くんが席を立つ。
そして、私に近づいてくる。
「俺にそんな口きけるようになったんだ?えらなったなぁ?」
お得意の顎クイだ。
そして、それに慣れずまたドキドキする私。
情けない。
この顔面が悪いんだ!!
性格底辺なのに顔面だけ良いから!!
「とにかくダンスに関してはもういい」
パッと手を離し、席へ戻ろうとする。
ガシッ
そんな暁斗くんの服を掴んで引き止めた。
「やります!やらせてください!…まぁ、前私があんなこと言ったからだけど…」
だんだんと小声になる私。
こっちに体を向け直す暁斗くん。
「本気なん?」
逃げないって決めた。
「本気です!ただ…」
「ただ…?」
私は俯いて、ダメ元で言ってみた。
「もうちょっとだけ…優しく教えてください」
どうせ、は?って言われるんだろうけど
これぐらいはお願いさせてもらえたら…なんて
僅かな希望を持ってみた。
わしゃわしゃ
ん?私、頭を撫でられている…?
「バーカ。俺はいつだって優しいっつーの」
顔を上げると、たまに見ることが出来るあの優しい笑顔。
朝から見れるなんて、今日はツイているのかもしれない。
「変わらず鬼練習に決まってるだろ」
そう言って自分の席に戻っていく暁斗くん、いやキモ野郎。
やっぱり悪魔だ。
「わー!鬼ー!悪魔ー!キモ野郎ー!」
もう隠さず全部言ってやった。
「ぶはっ!バーカ。心の声、全部出てるぞ」
あれ、笑ってる。
なによ、ズルいよ。
そんな可愛く笑わないでよ。
「いお、ありがとな」
その笑顔とひと言で、全部許せちゃうんだもん。
やっぱり、この人は悪魔だ。
魔性の悪魔だ。
— — — — — — —
「飯田さん、坊っちゃまが楽しそうに笑ってらっしゃいますね…」
「伊織様は坊っちゃまを照らす太陽ですから。牧、泣いてるのか?」
「あんな無垢な笑顔を見たのは本当にお久しぶりで…感動しております」