大嫌いな王子様
車の中で、暁斗くんは全然こっちを見てくれない。
そして喋らない。


「伊織様、とてもお似合いでございます」


飯田さんが、運転をしながらバックミラー越しに私を見ながら言ってくれた。


「ありがとうございます」


当の暁斗くんは・・・


まぁ、別にいいんだけどね。
何か言って欲しいとか思ってたわけじゃないし。



ズキンッ…

私、なに勝手に期待して勝手にショック受けてるんだろ。




そんなことを考えていると、あっという間に優聖学園に到着した。


「行ってらっしゃいませ。暁斗坊っちゃま、伊織様」

飯田さんに見送られて、講堂へ向かう。


「わっ」

ドレスも靴もなんて全然慣れてないから、早速つまづいてこけそうになる。



ガシッ

「大丈夫か?」

暁斗くんが支えてくれて、こけずに済んだ。


「ありがとう…」


「ごめん」

そう言って、暁斗くんはスッと手を差し出した。



「エスコートしなきゃなのにな」


ドキドキする。
私はドキドキしながら、ゆっくりと手を差し出す。



「行くぞ、お姫様」

口調とお姫様の単語が全然合ってない。
なのに不思議と、さっきまでの悲しい気持ちはどこかへいき、ドキドキしてしまう。


そんなかっこよく笑わないでよ。





「うわ…ぁ…」

やってきた講堂は、想像を遥かに超える広さで映画で見るような、もはやひとつの大ホールのようだ。


「ここで…踊るんだよね?」

「あぁ」


ヤバイ、すでに緊張してきた。



きゅっ…
繋いでる指に自然に力が入ってしまう。


「いお…「阿部さん!?」


この前連絡先を交換した女の子たちがやってきた。

確か…真ん中の子が太田さんだったよね。


「阿部さん、とっても可愛いわ。見違えるよう」


これは…褒められてるんだよね?

「ありがとう。太田さんも皆さんもとっても綺麗です」


みんなドレスアップしていて、ほんとに綺麗。
私なんか…浮いてしまってるんじゃないかって心配になるほど。




「行くぞ」

「はっはい!」

太田さんたちにひとまずバイバイをして、暁斗くんについていく。
クラスメイトとはあんまり喋らないのかな?



「ここで待ってろ。ドリンク取ってくる」


少し人が少ない角に連れてきてくれて、暁斗くんはドリンクを取りにバーテンダー?的な人のところへ向かった。



私、出来るよね。
精一杯頑張るんだ。



「伊織ちゃん♡」

「わぁ!!」

いきなり声がして、驚いてしまった。



「佐伯…くん!?」

「当たり♪覚えててくれたんだ」

「い、一応は…」

前、暁斗くんと仲が悪そうに見えたけど・・・



「綺麗だね」

「えっ!ありがとう…ございます///」


褒められるとやっぱり嬉しい。
思わず照れてしまった。



「照れてんの?可愛い〜」

そう言いながら、佐伯くんの右手が私の方へのびてきた。



パシッ

「触んな」

暁斗くんは佐伯くんの手を払いのけた。


「あーあ、ナイト様が戻ってきちゃったか」

「佐伯、コイツにちょっかい出すな」

「俺たち友達だもんね?伊織ちゃん」

「ふぇっ!?」

いきなり私に振らないでー!



「まぁいいや。伊織ちゃん、あとでダンス申し込むかもだからよろしくね〜」

佐伯くんは去っていった。

なんだか謎な人だなぁ。




「隙あり過ぎなんだよ」

取ってきてくれたジュースを渡された。


「なに?隙って」

「うるさい」


はぁぁ!!?
あんたが言ったんでしょ!?

キモ野郎モード突入だ。




ヴーーッ

ブザーが鳴った。


「ただいまより、優聖学園 第38回ダンスパーティーを始めます」



ゴク…

いよいよ始まる。
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