大嫌いな王子様 ー前編ー
2曲目が始まった。
さっきとは違った曲調。
こんな感じの曲、確か飯田さんと練習した!
「うまいじゃん」
「えへへ。飯田さん…いや、なんでもないです!」
「ふーん」
危ない危ない。。
飯田さんとの秘密のレッスンを言うところだった。
グイッ
「俺に集中しろ」
ドキンッ
そんな真っ直ぐな目で見られると、…いや言われなくてもあなたのことしか考えられなくなる。
一刻も早く眼科に行かねば、悪化してしまうに違いない。
なんとか、第2、第3ステージもクリアしベスト8に入れることになった。
いや、これだけでも奇跡だよほんとに!
「これ飲んで休め」
「ありがとうございます」
またジュースを取ってきてくれた。
ん?
なんだか、視線を感じる。
チラッと審査員席の方を見る。
バチッ!!!
暁おとと目が合った。(いや、暁おともだいぶ言いにくいなぁ)
え、こっち見てた?
絶対見てたよね?
いや、偶然かもしれない。
慌てるな、私。
どうしたらいいかわからず、軽く会釈をした。
だけど、もちろん会釈は返ってこない。
私の思い込みだったのかも。それはそれで恥ずかしい。
「いお、何やってんの?ペコペコして」
「えっと…暁斗くんのお父さんと目が合った気がして…」
「父さん?」
暁斗くんはチラッとお父さんの方を見る。
「なんも気にすんな」
ポンポンと私の頭を撫でてくれる。
私より、暁斗くんが絶対気にしてるしたくさん抱えてることあるよね?
私がその荷物を作ってしまってるんだけど。
だけど、あなたは言わない。
そういう人。
「次で決まりますよね?」
「ん?あぁ、そうだな」
今度は私から手を差し出した。
「こ…後悔しないように精一杯、だけど楽しんで踊るつもりなので宜しくお願いします‼︎」
言ったそばから恥ずかしくなって、すぐ目を逸らしちゃった。
差し出した手をグッと引っ張られ、気づけば暁斗くんの腕の中。
「えっと…暁斗くん……!?」
心臓うるさくて、暁斗くんにも聞こえてしまうかもしれない。
それは非常に恥ずかしく、ヤバイ。
「俺こそよろしくな」
今日何度見ただろう、この優しい笑顔を。
視力の低下が著しいんだろうけど、もういいや。
この笑顔が見れるんなら。
〜♪
音楽が流れ出す。
「行くか、いお」
「はい!」
私たちは、本日最後のダンスを始めた。
この曲…難しい。
あ、ステップ間違えちゃった。
暁斗くんとぶつかっちゃった。
ヤバイヤバイ、どうしよう。
チラッと周りを見る。
金澤さん、残ってる。
うまいもんなぁ。
あれ、佐伯くんもいる。
みんな…すごい。
「いお。集中しろ」
「あっ!ごめんなさい!」
私ってば、周りを見る余裕なんかないくせに集中もしないなんて最悪。
あ、また間違えてしまった。
もう、暁おとにも呆れられちゃうよね。
なにより暁斗くんに呆れられちゃう…
じわ。。
あ、泣いちゃダメ。
「いお」
私を優しく呼ぶ声。
パッと顔を上げる。
「俺、今すげー楽しいから。いおも楽しんで?」
暁斗くん…
「…はい!」
そうだ、精一杯楽しむんだった!
♪〜...
最後の曲が終わった。
息が上がる。
周りから大きな拍手があり、こんな拍手をしてもらうことに慣れてない私はテンションが上がっていく。
審査相談会が終わり、最終結果が発表される。
「第1位は吉井・金澤ペア」
わぁっと歓声が上がり、大きな拍手。
金澤さん、すごいなぁ。
すごく上手だったもんね。
私たちは8位だった。
ベスト8の中では、最下位になる。
絶対私が足を引っ張った。
「暁斗様のダンスはさすがだったねぇ」
「中学の頃、ずっとトップだったのにね」
やっぱり私が足を。。。
「なぁ、いお。ちょっと付き合え」
そう言われて連れてこられたのは、講堂から少し離れた部屋にあるバルコニー。
「これ着ろ」
暁斗くんのジャケットを羽織らせてくれた。
「ありがとう…ございます」