大嫌いな王子様 ー前編ー
ep.7 世にも恐ろしいご対面
そろ〜り
忍び足〜
ダンスパーティーが終わり、深夜0:50頃。
日付も変わり25日のクリスマスになった。
私は眠れない。
ほんとはむーーっちゃ疲れてるから眠たいはずなのに
バルコニーでの、暁斗くんのキスが頭の中をグルグル回っていて全然眠れないのだ。
そして、今なぜ忍び足なのか。
それはトイレに向かってるんだけど、万が一!!暁おとに会ってしまうと大変ヤバイので角や柱に隠れながら向かっているというわけなのです。
広いお家はトイレも遠くて困る。
未だに若干迷路みたいだし。
しかし…
忍び足で向かうから全然トイレに辿り着かない。
この調子だとあと何分かかるんだ?
いや!でも見つかるわけにはいかないし。
「あんたさっきから何してんの?」
「ひゃあっ!」
後ろからのいきなりの声に、驚いて大声が出てしまった。
「夜中にでけー声出すな」
そこには暁斗くんが!
眠れない原因1位の人がいる。
私は恥ずかしくてパッと顔を伏せた。
「あ?なんでそっぽ向くわけ?」
そっぽ向くとか可愛いこと言うんだ〜なんて、呑気に考えていたのも束の間
グイッ
お得意の顎クイで、無理矢理目を合わせさせられる。
「ちゃんと俺を見ろ」
もう!人の気も知らないで。
だいたい、なんでコイツはこんな普通なわけ?
帰りもかなり普通だったけど。
もしかして…慣れてる?
私はほっぺのチューでこんなにも悩んでるのに。
あー、なんかバカらしくなってきた。
スンッ…
私はひとまず落ち着くことにした。
「あのさ、マジで何してんの?怪し過ぎるぞ」
ちょっと呆れた顔で私を見る暁斗くん。
「いや、えっと〜…」
「言え」
深夜の静かな廊下に響く、暁斗くんの声。
相変わらずのムカつくほどの命令口調なのに、ドキドキしてしまう私はやはり重症だ。
「お…お父さんに会わないように隠れながらトイレに向かってたんです」
「なんで隠れる必要があるわけ?」
あ!!
しまった!!お父さんのこと言ってしまった!!
「えっえっと…あ!そう!いきなりこんなのがいたらお父さんビックリしちゃうでしょ!?不法侵入とか言われたら大変だし!」
なんとかその場しのぎの言い訳を。
飯田さんに聞いたなんて言えない。
「お前…怪しいな。もしかしてー…」
カタンッ
廊下の少し先から音と声が聞こえた。
「やべっ!来い」
手を引っ張られ、どこかの部屋に入った。
パタンー…
真っ暗な部屋。
何も見えないけど、暁斗くんが目の前にいることはすぐわかる。
握られている手から伝わる体温
すぐそばから聞こえる息遣い
真っ暗なせいで、より敏感になってしまう。
少しするとドアの外から何人かの男の人の声が聞こえてきて、そして次第に声は遠のいていった。
「はぁー…行ったな。いお、生きてるか?」
「はっはい」
理由はわからないけど、とにかく今は静かにしないといけないことはわかり、息をすることすら緊張した。
それにこの時間の間、ずっと握られていた手。
ドキドキが止まらない。
私って…実はかなりの変態なんじゃないだろうか。
「開けるぞ」
そんな私の最低な思考には気づかず、暁斗くんはそーっとドアを開ける。
「ふー…いねぇな」
しばらくぶりの明かりに、目が一瞬チカッとした。