大嫌いな王子様 ー前編ー
「コホンッ坊っちゃま、私がいることは覚えていらっしゃいますか?」



ハッ!!

飯田の言葉で我にかえる。
「あ?意味わかんねぇこと言うな」

「失礼いたしました」



さて、マジで考えねぇと。


「明日父さんが仕事に出たら、いおを家族がいるマンションに送ってくれ。牧さんたちには伝わってるのか?」

「かしこまりました。もちろん、牧たちには伊織様のことは他言無用と伝えております」

「わかった。今はまだバレるわけにはいかない」

ダンスパーティーで、もし奇跡的に優勝出来れば少しでもいおを紹介しやすくなると思ってた。

でも、それは俺のエゴで結局いおに無理をさせただけだった。

もう少し…俺が力をつけないと。。




「坊っちゃま、どうして今回旦那様がダンスパーティーの審査員をされたと思われますか?」


そう、それが気になってた。


「さぁな。明日吹雪くんじゃね?こんな珍しいことがあって」


「理由なのですが…」


コンコンコンッ


タイミング悪く?こんな時間にノック。

ひとりしかいない。




「はい…」

「起きてるか?私だ。入るぞ」


やっぱり…


「今電話してる。ちょっと待ってくれ」


ベッドで寝てるいおを隠さないと!



「飯田、いおを連れて奥のクローゼットに隠れてろ」

「かしこまりました」


飯田は爆睡のいおを抱き、奥にあるクローゼットに入った。




ふーっ

軽く深呼吸をして、ドアを開ける。



「すまんな、こんな夜分遅くに」

「いえ、父さんおかえりなさい」



いつぶりかの、親子の会話。



「今日のパーティー、楽しませてもらった」

「父さんが珍しいな、審査員なんて」

「母校に恩返しがしたいと思ってな」

「あっそ」


絶対ほかに理由がありそうだけど。



「お前が一緒に踊っていた相手だが…」


きた

「優聖学園の生徒ではないな?」


もう、そこまでお調べ済みですか。


「そうだけど、だから?」

「お前の相手は金澤さんだったはずだが?」

「それは勝手に決められてたことだろ?俺は一回も承諾してねぇ」



まさか、、父さんが…?


「金澤さんのお嬢さんは心が広く、今回のお前の愚行を許してくださったぞ」

「は?聞いてたか?俺は何も承諾してねぇんだって。勝手にそっちで決めたんだろ」

「暁斗。そろそろ皆実家を継ぐことを考えてー…」

「知るか。仮に継ぐとして、なんで父さんに決められた通りに何でもしなきゃいけねんだよ」


「お前は和希のようにならないために私は…」


「うるせー!」


久しぶりに帰ってきたと思ったら、またこんな会話かよ。



「毎回毎回、同じ話…もうウンザリなんだよ。出てってくれ」


「明日の午後、金澤さんのお宅まで謝罪に行くぞ」

「は?なんで俺が行くんだよ」

「誰のおかげでこの生活が出来てると思ってるんだ?」


あー、マジでウザイ。


「悪いけど、今は自分の分は全部自分で稼いでるから」


「その“仕事”も私がひと言いえば、明日にはなくなるものだ。子どもは親の言い付けを守って生きていけばいいんだよ」


そう言って父さんは部屋をあとにした。



あーやべぇ

ケンカしたいぐらい、むしゃくしゃする。


あの、くそオヤジ。





ガタガタッ

物音がする。



あ!

俺は急いでクローゼットを開けた。



「坊っちゃま…大丈夫ですか?」

「最低最悪だよ。あのくそオヤジ」



飯田の腕の中で寝ているいお。


あー、さらにムカムカしてきた。




「俺が連れていく」

飯田からいおを離して、俺が抱きかかえた。


別になにも飯田は悪くないのに、なんか腹立つ。
あのくそオヤジのせいだな。




いおをベッドに寝かせる。

スーッと寝息をたてながら寝ているいおの顔を見てたら、なんだか心が落ち着いてきた。




「あのオヤジ、金澤んとこと何か仕事でもすんのか?」


「はい。先程の続きになりますが、今回審査員になられたのも、そもそも坊っちゃまが金澤様とペアになられたのも全て金澤ホールディングスとの業務提携のためでございます」


だろうな。
わかりやす過ぎて、驚きもないわ。




「ここからは確定のお話しではないのですが、どうやら金澤様が坊っちゃまとダンスをしたいと仰ったようで。旦那様も金澤社長も承諾した…ようでございます」


「意味わかんねぇな。仕事の話なのに巻き込まれてるのが」


「はい。それに、どうやら坊っちゃまと金澤様がご婚約されたらいいのでは…のようなお話にもなってる噂を耳にしました」


「うーわ。ウザイ通り越して吐き気だな。アホの集まりか」


「私もこのお話は先程別の者に聞きまして…。どうやら私から坊っちゃまへ話が流れないよう、私にも伝えぬ形になっていたようです」


「アイツら暇だな」


「気づかず、大変申し訳ございません」


「どうせあのくそ親父のことだ、業務提携が軌道に乗ったら一気に掌を返して主導権を握ってくるのにな」




やることが増えた。
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