大嫌いな王子様 ー前編ー

バンッ!!!


「いお!!」


勢いよくドアが開き、私を呼ぶ大好きな声が聞こえた。




「あき…とくん……」


暁斗くんを見るとホッとしたのか、涙がもっと溢れ出し止まらなくなった。




ガタンッ!!

「坊っちゃま!!おやめください!!」


暁斗くんは暁おとの襟元を鷲掴みした。



「くそオヤジ…!いい加減にしろよ!?いおに何言った!?」


「暁斗、なにを熱くなってるんだ?」

「質問に答えろ」


「別に何も言ってないさ。なぜ、この屋敷や学園に“汚いネズミ”が入り込んでるのか聞いただけだよ」



「は…?テメェ、許さねぇ。今すぐいおに謝れ」


「何を謝ることがあるんだ?」

「くそジジィ…!」


暁斗くんの表情が変わり、左手を振り上げた。


「坊っちゃま!!」




「ダメ…!!!」

気づいたら足が勝手に動いていて、暁斗くんの左腕を掴んでいた。



「暁斗くん、ダメです!」

「離せ。コイツだけはマジ許さねぇ」


グッ!!
私はより強く腕を掴み、叫んだ。


「暁斗くんお願い!!やめてください!!!」


ダメだよ


「自分のお父さんをー…大事なお父さんを殴っちゃダメ!!」



気持ちが通じたのか、暁斗くんは振り上げていた左腕を下におろしてくれた。



あー、ヤバイ。
もう何に怯えてるか自分でもわからないけど

手も足も震えてる。



「いお…」


ぎゅっ

震える私の肩を抱いてくれる暁斗くん。




「あ、あの…」


私は最後の力を振り絞るかのように、声を出した。

そうでもしなきゃ、震えて声も出ないだもん。



「この度は…本当に申し訳ありませんでした。ここもマンションもすぐに出て行きますので、どうか暁斗くんや飯田さん、牧さんたちを怒らないでください…」


私が出ていくことで解決出来るとは到底思えないけど、だけど私に出来ることはこれぐらいしかないんだ。


なんて、非力なんだ。


「ちょっと待ていお!それはー…!」

「お話中に失礼いたします。会長、少しよろしいでしょうか?」


暁斗くんの言葉を遮るように、飯田さんが暁おとに話しかけた。


「なんだ?」


「実は…」

耳打ちしていて、こっちには全然聞こえない。


話を聞いた暁おとの表情が少し強張った。


なにか…あったの?




「ふ…」 

そして、いきなり笑い出した暁おと。
情緒不安定か?
いや、それは私か。

なんて、現実逃避モードに入りだした私。




「暁斗。ようやく本気を出してくれて嬉しいよ」


暁おとが席を立つ。



「伊織さん?今回の暁斗に免じて、1ヶ月猶予をやろう」


え…?


「その間に仕事を見つけて出て行きなさい」


そう言って暁おとはダイニングを出て行った。



なんで?
急に意見を変えたの?



暁斗くん、何をしてくれたの?




「いお、ごめんな。ほんとにごめん」


「なんで暁斗くんが謝るの?私が…」



悔しかった。

私たち家族をバカにされたようで。

お金持ちってそんなに偉いの?
お金目当てだって思われてたの?

私ってそんなに“汚い”の?


ただ、自分なりに頑張って生きているだけなのに。



「ふぇ…」

こんなに優しい、温かな心の暁斗くんを

バカにしないでよー…!



ぎゅっ


「いお…」


私は暁斗くんの腕の中で泣き崩れた。
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