大嫌いな王子様
15時前。
結局全然オシャレなんて出来なかった。
よれよれのニットにデニム。
中学から使ってるよれよれの薄いコート(激安の2,500円で買ったため、信じられない程の薄さ)
ただ、これだけは違う。
昨日暁斗くんにもらったイヤリング。
青く光る綺麗なビジューがついていて、とっても可愛い。
私は机の引き出しを開けた。
そこには貯めてきたバイト代。
これを持っていく。
私には決めていることがある。
コンコンッ
「開けるぞ?」
「はい」
部屋に入ってきた暁斗くんは、やっぱりオシャレでかっこいい。
恥ずかしいな。。
私、こんなので。。
「行くぞ」
「はっはい」
メイクも見よう見まねでしたから、へんてこ。
女子力皆無の自分を恨んだ。
みっちゃん、助けてー!!
「坊っちゃま、伊織様行ってらっしゃいませ」
玄関には飯田さんと牧さんがいた。
「あ、さっきは…」
「伊織さん、楽しんできてくださいね」
牧さんの優しい笑顔。
「はい。ありがとうございます」
珍しく車に乗らないんだ。
ふたりで歩くの、なんか不思議な感じ。
市街に近づいていくほど、人が増える。
そしてもちろん視線がたくさん刺さってくる。
わかる、わかるよ?
釣り合ってないでしょ?
私、なんで隣を歩いてるんだろ。
このままじゃ、視線で血だらけになってしまう。
こんな格好で、いやこんな私が隣にいてすみません!!!
今すぐ街中で土下座したい。
「いお、どうした?」
「え!なにも!!」
ひとりでこんなことを考えている私を不審に思ったのかもしれない。
すごい安物でもね、一応私にとっては一張羅なんだよ。
きゅっ
えっ…!
手を繋いでくれた。
「可愛いから胸張れ」
ずきゅーーーーん
私、やっぱり今日命保たないかもしれない。
街中をブラブラする。
ただ、ブラブラしてるだけなのになんだろうこの感じ。
むっちゃ緊張するやん!!
※ただいま、休憩に入ったカフェのトイレ
鏡に映る自分を見る。
なんなの、この気持ち。
私、おかしいよ。
今まで思ったことない
自分を構いたくなるなんて
胸の辺りがむず痒くなる。
ぎゅっとなる。
気づいちゃいけない。
暁斗くんのいる席に戻る。
えー、わかりますよ。
かっこいいですもんね?
みんな見ちゃいますよね?
戻ってきたのが私なんかで驚きますよね?
「そういえばお前今日なんか食ったか?」
あ、忘れてた。
お母さんたちのところへ行く準備とかでバタバタして
「まだでした」
「俺も」
暁斗くんも食べてなかったんだ。
「これ、食わねぇ?」
暁斗くんが指したメニューは、クリスマス限定のパンケーキ。
「こんな可愛いの…いいんですか?」
「…俺が食いたい」
店員さんを呼んで、暁斗くんに似合わない可愛すぎるパンケーキ2種類とドリンクを頼んでくれた。
窓際の席だから、外の景色が見える。
楽しそうで幸せそうなカップルがたくさん。
もしかしたら…私たちも1ミリぐらいでもカップルに見えてたらいいな、なんて浅はかな愚かな考えを一瞬でも持ってしまった。
「……………」
あかん!
ビビるぐらい、沈黙が続いてる。
こんなん、カップルに見えるわけないよね!
って!そんなの関係なくて!!
なにか、会話をせねば!!
「あき…「俺さ、弟がいんだよ」
え…?弟?
「今中2で和希(かずき)って名前」
「そう…なんですか」
急にどうしてそんな話を…
それに家にいる?
もうすぐ暁斗くんのお家に住ませてもらうようになって2ヶ月だけど、まだ会ったことない。
「和希は1年ほど前から家出中」
「え!?」
「どこにいるか全然わかんなくて…」
「お待たせいたしました」
タイミング悪く?店員さんがやってきた。
目の前にはとっても美味しそうなパンケーキが。
「あー、さすがに腹減ったかも。食うか」
「はい」
私からは聞けない。
一度中断してしまった、弟さんの話。
また、続きを聞かせてもらえる時がくるのかな。
家出中って…
すごく心配だよね。
「いお、食わねぇの?」
はっ!!
考えててぼーっとしちゃってた!
「た、食べます!」
「早くしねぇと俺が食うぞ」
あ、笑ってくれた。
もうズルいなぁ。
ムカつくほど俺様で、呆れるほど優しい
そんなあなたが、ギャップ過ぎるほどの可愛いクリスマス限定パンケーキを食べる。
認めずにはいられない。
私は、暁斗くんが好きだ。