大嫌いな王子様 ー前編ー


「もう大丈夫ですよ、伊織様」


「ほんとですか!?」


邪魔しちゃいけないから、部屋の外でずっと待っていた。

あれから飯田さんがすぐ来てくれて、お医者さんを呼んだ。
専属のお医者さんがいることにも驚きなのに、この年末に家まで来てくれることにもビビりまくってしまった。



「過労だそうです。坊っちゃま、この1週間ほど、ほとんど寝てませんでしたからね」


「そうなんですか!?」


そんな…知ってたら……

「クリスマスの日とか出かけなかったのに…」


「それは関係ないですよ。暁斗坊っちゃまがお出かけされたいと仰っていましたからね」


「私のせいで…暁斗くんに迷惑をかけてますよね?暁おと…いや暁斗くんのお父さんから何か嫌がらせされたりとかもないですか?」



ポンッ

飯田さんが私の頭を撫でてくれた。


「おっと…。坊っちゃまに叱られるところでした」

パッと手を離す飯田さん。


「???」


「伊織様は何も悪くないですし、旦那様もそんなことはなさいません。おふたりとも、お仕事面では対等に近いですからね」


そんなに暁斗くんはすごいんだ。。



「暁斗坊っちゃまは私たちにお任せください。伊織様もこんなお時間ですし、お夕食後、ゆっくりご入浴してお休みくださいませ」



「…わかりました」




夕食を食べてる時も、お風呂入ってる時も、髪乾かしてる時もずっと頭の中を回るのは暁斗くんのこと。


あかん!!
気になってしゃーないわ!!




23時過ぎ。

暁斗くんの部屋へ向かう。


バタンッ

ちょうど飯田さんが部屋から出てきた。


「飯田さん!」

バタバタと私は飯田さんに駆け寄った。


「伊織様」

「暁斗くんはどうですか!?」

「まだ熱が続いております」


そっか…


「飯田さん、ちょっと休んでください。私、看病代わります」

「いえ、大丈夫ですので」

「飯田さんも全然休んでないですよね?飯田さんまで倒れちゃったら皆実家が大変になりますよ」


ズルいことを言うのですね、伊織様。


「…かしこまりました。お言葉に甘えさせていただきます。ですがお約束くださいませ」

「はい?」

「何かございましたら、お時間に関係なく必ず私にご連絡くださいね?必ず駆けつけますので」


「はい。ありがとうございます」


飯田さんは自分の部屋へと向かっていった。



私はそーっと部屋に入った。



眠っている暁斗くん。
だけど、すごく辛そう。


おでこの冷却シートを変えて、顔や首の汗を拭く。


汗を結構かいてきてるから、熱が下がってきたのかも。



「う……」


「暁斗くん!?」


苦しいんだね。
代わってあげたい。



「ごめんね」


早くここから出て、引っ越しをしないと。





——————————

うわー、しんどい。
久々やってしまった。

身体中いてぇ。

でも、徐々にマシになってきたか?



「ごめんね」

いお?

いおの声が聞こえた気がした。


なんで謝ってるんだよ?


「早く…出て行かなきゃ」


何言ってんだよ、そんなこと許さない。



なぁ、そばにいるのか?

触りたい、いおに。


いお、俺はー…




ハッ!!

「夢…?」


目が覚めた俺は、右手を上に伸ばしていた。
寝ぼけてたか?



「ん……」

ゆっくり起き上がると、周りには誰もいない。


ひとり…か。


でも、おでこの冷却シートはまだ冷たいし水や氷もある。



飯田や牧さんか?



ガチャッ


「え!?」

ドアが開いた音と同時に、いおの声がした。


俺…空耳まで……


「暁斗くん!目が覚めたんだね!」


空耳じゃなかった。
いおだ。


「食べれるかわからないけど…キッチン借りて少しだけ雑炊作ってきたんです」


いそいそと小鍋をベッド近くの小さなテーブルに置くいお。


「いつ目が覚めましたか?お待たせしちゃってたらすみません」


いおが俺に近づく。


「まずは熱を測りましょうか。あっお水飲めますか?」


よかった。
さっきのは夢だったんだ。


いや、今はそんなことより



「いお」

「はい?何かいりますか?」


「こっち来て」


「あっじゃあ体温計をー…!きゃっ」



俺は気付けば、いおを抱きしめていた。



「あっ暁斗くん!?」


あー、いおの匂いがする。



「どっか行ったかと思った」


抱きしめる力を強めた。



「暁斗くん?」


「そばにいろ」



ポンポンッ

いおが俺の頭を撫でてる。



「おい、子ども扱いすんな」

少し離れていおの顔を見る。



「あーあ、甘えたモードかなと思ったら俺様暁斗くんに戻っちゃった」

そう言いながらニコッと笑ういおが可愛くてたまらなくて…
なんだよ、この気持ち。
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