大嫌いな王子様 ー前編ー

「いお…」


俺はゆっくりいおの顔に近づく。


「え…暁斗くん……」




トスンッ

「暁斗くん!?」


私の肩にもたれかかるように倒れた暁斗くんは、息がまたすごく荒い。


一瞬…キスされるかと思ったーー…!
心臓がバクバクうるさい。



って!!
今はそれどころじゃない!!
おでこを触るとまた熱くなっていた。


「もう!熱早く測らなきゃ!お薬も飲んで!」


「いや…だ」


私は無視して、暁斗くんに体温計を渡した。

「測ってください。早く」


「チッ…」

何の舌打ちやねん!



ピピッ

「38.9分もあるじゃないですか!どうしよう!」

「うるさい。40度じゃないから大丈夫」


なんだよ、その意味不明な理論は



「飯田さんに連絡します」


スマホを出した手をガシッと握られた。



「いいから…。じゃあ、熱が下がるまでそばにいろ」


またそんなこと…


「それは当たり前です」


「あー…当たり前か。そっか」


熱で弱っているからか、いろんなモードの暁斗くんが見れる。



「氷枕も変えましょう」

「喉乾いた」

「はい、お水です」

「飲ませて」


何言ってんの!?
ドキドキする自分が嫌になる。



「なぁ、いお飲ませて」

やべー…熱のせいか朦朧とする。

だけど、いおに触りたくてたまんねぇ。
困った顔が可愛くて、もっと困らせたくなる。



「いお、口うつ…」


スーッ……


何かを言いかけて暁斗くんは寝てしまった。


なんとゆー……
俺様とわがままを融合させてきたじゃないか!!

熱なのにパワーアップしてる!!



そんな暁斗くんに私はドキドキしっぱなし。


私のせいで過労になってるのに
熱で苦しんでるのに


そもそも、私と暁斗くんは住む世界が違いすぎるんだから

この想いは絶対打ち明けちゃダメ。

ほんとはこんな想いを抱くことすらダメなことなんじゃないかと思う。



私なんかが好きになっちゃいけない人だから。




「い…お……」

ドキンッ  

寝言で私を呼んでくれてる…?



「そのふ…く、変…」



ちーーーーーーん



どんな夢見てんねん

私も、もっとマシな出演方法あったやろ!?




あー、なんか真剣に考えるのがバカらしくなってきて笑けてきた。



「着替え用意しなきゃ」




翌朝、すっかり熱も下がり元気になっている暁斗くん。

40度近くあったんだよ!?
こんなすぐ回復する!?

いや、回復してよかったけど。


やっぱり化け物だ。



「雑炊、あっためてこい」


だから!なんで命令口調なのよ


まぁ、元気になった証拠ってことにしとくか



「はいはーい」


小鍋を持とうとした時

後ろからぬくもりを感じた。
背中に暁斗くんの体温を感じる。


「やっぱまだ行くな」



あれ?

「暁斗くん、まだ熱ありますか?」

甘えたモード継続中ですか?



「確かめる?」


私の顔を後ろに向かせる、暁斗くんの手。

そして、ゆっくりと私の顔に近づいてくる暁斗くんの顔。



「確かめて…」


暁斗くん…



バタンッ!!


「坊っちゃまー!!ご体調いかがですか!?」


おわーー!!!!


私はドンッ!!と暁斗くんを押した。




「ん…?大丈夫でございますか!?」


「えぇ!!もちろん何もないです!!」

わけわかんない答え方をする私。



「飯田…ノックぐらいしろよ……」

おぉー!!なかなかのお怒りモードの暁斗くん。



「大変申し訳ございません。先程伊織様に坊っちゃまの熱が下がった旨のご連絡を頂いたので、夢中で飛んできてしまいました」


飯田さんらしい。


「ウザすぎる」


ドキドキさせられっぱなしの年末。

私は今年、生まれて初めて恋をした。
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