大嫌いな王子様 ー前編ー

ep.10 キスの味


「坊っちゃま、明けましておめでとうございます」

「おめでとう。今年も宜しく」


新年早々意外なことが起こった。



その気持ちが顔に出ていたのか

「おい、飯田。あそこのキモイメイドつまみ出せ」


私を指差す暁斗くん。
いや、今はキモ野郎だ。



「坊っちゃま、新年ですので」

「その新年早々、気分わりぃんだよ。あの顔見たら」


うーわ。
やっぱいつも通りやん。


さっき、みんなに【今年も宜しく】なんて言うからなんか意外でビックリしちゃったけど、やっぱこんな奴やん。


「牧さん、コイツ仕事してます?サボってたら給料減らすんで、すぐ教えてください」


なんだ、コイツ〜!
元旦からケンカ売るやん?




ドンッ

「“坊っちゃま”コーヒーでございます」

キモ野郎の前に勢いよく、ホットコーヒーを置いた。
そして嫌味を含めて、坊っちゃまと呼んでやった。



キモ野郎の手が伸びてきた。


むにっ

「ありがとな。キモメイドさん?」

頬をつねられる。



「い、いひゃい」

嘘。
全然痛くない。


触れられた頬が熱い。



こんなに朝から、元旦からウザくてキモくて俺様なのに
私はドキドキして恋してる。



飯田さんと話してる横顔にすらトキめく私は、もうこの沼から抜け出せないのかもしれない。



「ジロジロ見んな、キモメイド」

いや…やっぱ嫌いかも?




年末年始、お手伝いさんたちはほんとバタバタで、寝る時間以外お休みがない状態。

掃除して、おせち料理作って、お正月の用意してなど…やることが山のようにある。
牧さんたちを尊敬する。

私も微力ながらお手伝いしたくて、キモ野郎にはお母さんたちのところに行っていいって言われたけど、残って仕事をすることにした。
お母さんたちとは毎日連絡取ってるし、明後日あたりに会いに行くつもり。



「坊っちゃま、午後からアンディー様がご挨拶にいらっしゃいます」

「アイツ日本(こっち)来てんの?」

「はい。本来元旦はゲストを呼ばない手筈だったのですが、アンディー様が本日しか無理とのことで…今朝方急なご連絡があり、大変申し訳ございません」

「別にいいよ。わかった」


アンディー様??
外国人かな??



「伊織さん」

「はい」

牧さんに呼ばれた。



「伊織さんが手伝ってくださったおせち料理、コックたちにも評判です」

「え!ほんとですか!?」

お世辞でも嬉しい。
皆実家では何故か、おせち料理はお手伝いさんたちで作るのが昔からの伝統らしく、コックの方たちに最後に味見をしてもらう形になっているようだ。


「簡単なものしか作れないけど、毎年私が作ってたんです。スーパーで年末に特売になってる食材限定なんですが」

「素晴らしいです、伊織さん」


他のお手伝いさんたちとも仲良くなれだした近頃。
少しでも役に立ったのなら、こんなに嬉しいことはない。



「だいぶ馴染んだな、アイツ」

「伊織様のおかげで、使用人たちが毎日生き生きしております。もちろん、私も含めてですが」

「アイツらしくいれるなら、それでいい」


前に自分で言った言葉を思い出した。


【太陽に向かってまっすぐ伸びるひまわりにも見えるけど】


ひまわり、、ね。
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