大嫌いな王子様
ピンポーンー…
インターホンが鳴った。
「アンディー様でございます。お迎えに行ってまいります」
私や牧さんたちは、ダイニングの大きなテーブルにおせち料理などを並べている。
暁斗くんは近くのソファで仕事の資料を見ている。
ガチャッ!!
「アキ!!」
「おー、アンディー。久しぶりだな」
とても綺麗な外国人の女性が入ってきた。
「会いたかったわ〜!」
その女性はいきなり暁斗くんに抱きついて、そして暁斗くんの頬にキスをした。
なっなんと。。。
でも、私はその後の光景の方が驚いた。
暁斗くんがアンディーさんの両頬にキスをした。
あー、やっぱりね。
キスなんて暁斗くんにとっては、なんともないんだよ。
ほら、まだ抱き合ってるし。
(正確に言うと、アンディーさんが抱きついてるに近いけど)
外国の人はキスは挨拶って言うもんね。
暁斗くんたちの住む世界もきっとそうなんだ。
わぁ〜…なんだか浮かれたりしてた自分が恥ずかしくなってきた。
あの時のキスは、、、何も意味がなかったんだね。
ガチャーンッ!!
ハッ!
「大変失礼いたしました!!」
やってしまった。
ボーッとして、グラスを落としてしまった。
「すぐ掃除いたします!弁償もいたします!!」
私は急いで破片を拾おうとした。
「おい…!」
「痛ッ…」
急いだせいか、指を切ってしまった。
もうやだ、、ほんと何してんの私。。
「触んな、バカ」
大好きな声が聞こえたと思ったら、切った指の右手を掴まれた。
「深く切ったんじゃねぇだろうな?」
「だ、大丈夫ですから‼︎それよりごめんなさい、私弁償してますからー…!」
えっーーー…
切った人差し指を、暁斗くんが自分の口に運んだ。
そして、ペロッと舐めた。
待って。
何が起きたの…!?
私はフリーズ状態。
かろうじて生きていることがわかるのは、このうるさい心臓の鼓動のおかげ。
「そんなこと、どうでもいいんだよ」
指先がジンジンする。
でも、これは切った痛み?
それとも、暁斗くんのせい?
てか!!
みんなに見られてるー!!!
ど、どうしよう・・・
「手当するぞ、悪い飯田、片付け頼むわ」
「承知いたしました」
「へ!?暁斗くん!」
腕を引っ張られ、ダイニングを後にした。
「アキ…あんな感じだった?」
「はて…いかがでしょうか?」
「飯田は相変わらずね」
「左様ですか」
ーーーーーーーーーーーー
連れて来られたのは暁斗くんの部屋。
おぉ!救急箱がある!
なんて、なにを呑気に思ってるんだ!
「あの、全然大丈夫なんで。暁斗くん、先に戻ってください」
「うるさい」
痛ッ……
傷口に消毒液をかけられて、結構しみる。
「傷口は…そんな深くなさそうだな」
絆創膏をして、その上から軽く包帯を巻いてくれている。
大袈裟だよ…
「暁斗くん、アンディーさん待ってるだろうから先戻ってあげてください」
「……………」
無視か
「聞いてますか!暁斗く…「うるせぇな」
包帯を巻き終わった暁斗くんが、私をジッと見る。
その綺麗な目に吸い込まれそうになる。
「俺の目の前で、お前に怪我させたくねぇんだよ」
ほら、こんなことも平気で言う。
誰にでも、そうやって言うんでしょ?
もう、浮かれない。自惚れない。
「別に…そんなこと思ってもらわなくて大丈夫ですから」
うわ・・・
私、すごくひどい言い方をしてしまった気がする。
「あ、あき…」
「あっそ」
ガチャッ
「じゃあ、お望み通り先に戻るわ」
そう言って、暁斗くんは部屋を出て行った。
最低最悪の私。
完全な一方的な片想いのくせに、勝手にヤキモチ妬いて、八つ当たりして……
「ふぇ…」
そして、勝手に泣くんだ。