大嫌いな王子様

ガチャッ

「伊織さん、大丈夫ですか!?」

「牧さん、ご迷惑をおかけしました。全然大丈夫です」


ちょっと泣いたらなんだかスッキリした。


色々と私が悪い。


「飯田さん、片付けをお任せしてしまい申し訳ありませんでした」

「とんでもございません。お怪我の具合はよろしいのでしょうか?」

「はい。暁斗くんが手当してくれました」


チラッとテーブルの方を見ると、暁斗くんとアンディーさんがおせちを食べていた。



私はゆっくりと暁斗くんの元へ向かう。



「お話し中、申し訳ありません。先程はありがとうございました」


ちゃんとお礼言わなきゃ。


「嬉しかったです」


どうせ叶わない想いなんだから、素直な気持ちを伝えちゃえという、私の安易な考え。


私はペコッと一礼をして、牧さんたちの元へ戻ろうとした時


「この黒豆、うまい」


暁斗くんがいきなりこんなことを言った。



「やるじゃん?」

あ、意地悪な笑顔。

ヤバイ。嬉し過ぎる。

「ずっと…100均の黒豆を使っていたので少量だったから、今回豪華な黒豆で大量だったから焦りました」



「ひゃっきん…?」


ガーーーーンッ

さすが坊っちゃま・・・100均を知らないのね



「覚えなくて大丈夫ですから。では」


アンディーさんにも失礼だし、早くこの場を去らねば。



「今度連れてけよ」


あなたはいつも上からの俺様。


「行ってやる。いおの知ってる“世界”に」



「気が向いたらね!」

べーっとして、仕事に戻った。





フッ…

バカいお。


「アキ、楽しそうね?」

「そうか?普通だけど」


フツウ??
これがアキにとって普通なら、今までのアキはなんだったの?


「アキ、変わったわ」

「なんだそれ」


ビジネスパートナーとして、これからもやっていけるか…見極めさせてもらうわ。




暁斗くんとアンディーさんは食事を済ませて、資料を見ながら話している。

仕事の話かな?


アンディーさん、とっても綺麗な人。
暁斗くんも笑いながら楽しく喋ってる。


あ、まただ。
胸がきゅーってなる。


「伊織さん、ひと段落ついたしよろしければ休憩してくださいね」

「ありがとうございます。お先にいただきます」


お庭に出てみた。


寒いんだけど、頭を冷静にさせるにはちょうどよかった。




ーーーーーーーーー

「アキ、ここはこの値じゃないと引き受けることは出来ないわ」

「…なら、交渉決裂だな。他をあたる」

「な…!!我が社を切れば皆実会長がなんと言うか…!」

「父さんは関係ない。今は俺とお前の交渉だ。皆実グループはこれ以上出さない。もっと下げてもいいんだからな?」


へぇ〜


「はいはい、降参」

「アンディー、しょうもないことすんな」

「あら、バレてたの?」

「俺になんか不満か?言いたいことあるならハッキリ言え」


さすが、アキ


「アキが生ぬるくなってるんじゃないかと危惧したんだけどね、心配無用だったようだわ」

「なんだそれ?意味わかんねぇ」


腕を組んでムスッとしているアキ。

あなた、自分ではわかってないの?


今までのあなたは人に興味がなく、その分仕事に専念して天才的に仕事をこなしていた。

あなたがあんな風に人に接する様子を初めて見た…

いや、人というより“ひとりの女の子”に



「なんだか、これからのアキとの仕事がより楽しみだわ〜」

「もっと腕磨かねぇと足元すくわれるぞ?」


「ご忠告どうも。アキ、あのメイド?の女の子、紹介しなさいよ」

「あ?いおのことか?別にいいけど…」


興味がわいた。


「牧さん、いおは?」

「伊織さんは休憩中でして、先程お庭に出ておいででした」

「庭に?こんなくそ寒いのに…ったく」


アキはため息を吐きながら席を立った。


「ちょっと待っててくれ。呼んでくる」


アキは庭へ向かった。


迎えに行くんだ。
今までのアキなら、飯田たちに頼んで連れて来させてた。

あの子だからだろうな。



「アキはやっぱり変わった…というより、このお屋敷の雰囲気が変わったわ。ね?飯田」

「さすがアンディー様でございます」


「なんだか暖かくて優しい雰囲気。それにみんなが生き生きして楽しそうね」

この数年の皆実家では、感じられなかった。


「マリコがいた頃に戻ったように見えたわ」


「伊織様は皆実家の太陽でございます」


太陽…か。


「安心した。これからのアキも皆実グループも安心ね」

「ありがとうございます」
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