大嫌いな王子様
コンコンコンッ
「暁斗くん、入っていいですか?」
「あぁ」
ガチャッ
入りまーす。。
ソファに寝転んでる。
そりゃ、元旦からお仕事は疲れるよね。
「そこ置いてて」
「はい」
机にハーブティーを置いた。
「暁斗くんて…ハーブティーも好きなんですね。コーヒーが好きなんだと思ってました」
「え?…あぁ、そのハーブティーは飲めるんだよ。なんか疲れた時とか飲みたくなるっつーか…」
さすが牧さん。
(回想)
「では、こちらを坊っちゃまに」
「コーヒーではなくて?」
「今はこちらのご気分かな…と思いまして」
(回想終了)
私、暁斗くんのことなんにも知らないんだな。
モヤ・・・
なんなんだろ、前からおかしい。
好きってこういう気持ちなの?
なんで知りたくなるの?
なにを知りたいの?
なんで悲しくなるの?
「いおもちょっと休めよ」
身分違い過ぎて、全く釣り合わないのに
暁斗くんに少しだけでも触れたくなったり
こっち向いて欲しいって思っちゃったり
欲張りな自分に戸惑ってしまう。
今までこんなに欲しいって思ったことも物もなかったのに。
お母さんや晴が幸せなら私も幸せだった。
晴がお腹いっぱいになるなら、私はそれだけでよかった。
なのに、今はどうしてそんな風に想えないの?
こんな自分が嫌だ。
「失礼します」
「なぁ」
部屋を出ようとしたら呼び止められた。
「ちょっと来て」
【来い】じゃなくて【来て】の言い方の違いだけで、心が跳ねる私。
ほんとに病院行きかも。。。
私はソファの近くの床に正座した。
ギシッ
ゆっくりと体を起こして、ハーブティーを飲む暁斗くん。
「なんでしょうか?」
「アンディー、なんか言ってたよな?帰り際」
ドキンッ!!
気づいてたんだ!
「え、そうでしたか?」
「なんつってたんだよ、アイツ」
ほんとに言ってみていいのかな…。
でも、なんでアンディーさんはあんなこと……
「おい」
「わぁ!」
気付けば暁斗くんはソファからおりていて、私の目の前に。
私は咄嗟に後退り。
でもそのせいで、私がソファまで追い詰められて逃げ場がない。
「言えないことか?」
「いや、えっとー…」
私は明後日の方へ目線をチラッと逸らす。
「それでも言え」
ソファに両手をついて私に近づく暁斗くん。
そんな暁斗くんにドキドキが増す私。
あんなこと言っても、絶対呆れて「は?そんなこと?」みたいに言われて終わるはずだしなぁ…
でも、この状況はなんとかしなきゃだし…
あーもうめんどくさい!!
言ってやる!!
「あの!アンディーさんが、私にピッタリな友人がいるから紹介させてって言ってました!!」
「あ……?」
ほら!!
なんか呆れた顔してるじゃん!!
まぁ、正確には
【アキに、イオリにピッタリな友人がいるから紹介させてって私が言ってるって言うのよ。いいことあるから♡】
だけど・・・。
アンディーさん!!
なんもいいことありませんけど!?
こんなけ焦らしてこれかよ!?って絶対思われてますけど!?
「お前は紹介されたいの?」
え…?なんだか予想外の返答でビックリしてしまった。
「どうなんだよ?」
「あ、えっと…!私は……そんなつもり全然ないので!てか、よくわからないし…!」
焦ってよくわからない返事をしてしまう。
「俺のそばを離れるなんて許さねぇ」
ドキンッ
なんで、そんな目で見るの?
少し悲しそうな表情に見えるのは、私の視力が落ちてるせいなのだろうか。
「暁斗くんは…なに考えてるかわからないです」
「は?」
「そんなこと私に言って…暇つぶしとかですか?私じゃなくても誰かそばにいればいいんじゃないですか?」
あ、ヤバイ。
こんなこと言いたいわけじゃないのに、口からこぼれていってしまう。
「貧乏が珍しかったですか?…あんなハンカチもいらないですよね?」
暁斗くんはそんな人じゃない。
恩人なのに、大切な人なのに…なんでこんなヒドイことを言ってしまうの。
最低だ
「いお?なに言って…」
こんなヒドイことを言う私に泣く権利なんてないのに、涙が止まらない。
「キ…キスだって暁斗くんにとっては挨拶だもんね。誰とでも出来るものな……!」
止まらなかった私の言葉がようやく止まった。
暁斗くんのキスのおかげで。
え……キス??
今どうなって…
目の前に目を瞑る暁斗くんの顔。
とっても綺麗な顔。
私の唇は、初めての感触を知りまだ状況が飲み込めない。
瞬きするのも忘れてしまう。
少しして、ゆっくりと暁斗くんの顔が離れていく。
「やっとうるせぇのが止まった」
ドキンドキンッ
ヤバイ、心臓が爆発してしまうかもしれない。
お母さんと晴に最後の挨拶だけでもしたいんだけど、無理かな?
このドキドキの速度は尋常じゃないから。
あ、でも冥土の土産にファーストキスが出来たならいいか…
うん、いいよな。
「おい、とっとと現実に帰ってこい」
私がお得意の現実逃避をしていると、暁斗くんに戻って来させられた。
私の扱いに慣れてきてる様子。