大嫌いな王子様 ー前編ー


仕事が終わり、お風呂なども済ませた深夜。


私はスマホであるものを探していた。

ギガ数気にしなくていいってこんなに楽なんだ…。
今月分のスマホ代、渡さなくちゃ。
先月も受け取ってくれなかった。
お母さんたちの生活費も。

だから、ずっと貯めてる。
絶対渡したいから。



「あ、ここいいかも。明後日内見…」

「バイト、これ良さそう」

明後日の仕事、少し時間をずらしてもらえるかな。






「おはようございます。暁斗くん、明日の仕事なんですが18時からにしていただけませんか?」

「なんで?」


朝食中。

朝食を摂らなかったという暁斗くんだけど、私が作らせてもらうようになってから毎日食べてくれるようになった。
そんな些細なことも嬉しい。


「えっと…ちょっと学校帰りにお母さんのところ寄りたくて」

「ふーん…わかった」


よかった。
深く聞かれなかった。



「明日俺も遅いし休みでいいよ」

え!


「まさかケン…「うるさい」


あ、しまった。
ケンカって言いそうになってしまった。



「取引先と食事会なだけだ」

「あっそっか…」


帰りが遅いって聞くだけで心配になる。
また誰かとケンカするんじゃないかって。

そもそも、どうしてあんなことしてるの?


【早く吐けって、アイツの居場所を】

あの日聞こえた暁斗くんの声。
誰かを探してる?


知りたいけど、聞けない。



「お母さんと晴によろしくな」

「はい」



いつまでもここにいられない。
暁おとに言われた1ヶ月も、もうすぐ期限になる。

新しい家を見つけて、ここを出なきゃ。
そしてお母さんたちと暮らすんだ。




次の日の朝。

朝食を作り、朝の掃除を済ませる。


「牧さん、今日はわがままを言ってお休みをいただきすみません」

「とんでもないです。お母様たちとゆっくり過ごしてくださいね」


なんだか胸がチクリとする。

今日、内見とアルバイトの面接を入れた。



少しでも暁おとにも、暁斗くんにも胸張って付き合いたいからいつまでも甘えてちゃいけない。


「ありがとうございます」

私は学校の支度のため、部屋に向かおうとした。


「伊織さん!」


牧さんに少し大きな声で呼び止められた。



「これからも…ここで一緒に働いてくださいね」


ドキッ

一瞬、自分の気持ちがバレてるのかと思った。


「はい…ありがとうございます」


私ちゃんと笑えてるよね?





———————————

「それで一気に今日予約したってわけ」

「うん」

「あのさぁ伊織」

私の頭をわしゃわしゃするみっちゃん。


「わぁ!何するの!?」


「伊織のそういう真面目な所すごい好きだけど、御曹司くんの気持ちも考えなよ?」

「暁斗くんの気持ち…?」

「うん。お父さんのこともあるから大変だろうけどさ。あんた1人で突っ走らないようにね」


みっちゃん・・・


「みっちゃんが優しい。明日大雪かな」

「絶交。お疲れさん」

「あはは!やっぱりいつものみっちゃん」


ありがとう。

「みっちゃん、ありがとう。何が1番良いことなのか正直わかんないんだけど、出来ることはやってみるね」


「あっそ。いいんじゃない。何かあったらいつでも連絡しといで、ギガあるんだし」

「うん!みっちゃん大好き!」

「ならコンパ早く開いて」


今はとにかく自分の思うことを頑張ろうと思う。
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