大嫌いな王子様 ー前編ー


「お母さん!晴!」

「お姉ちゃーん!!」


お正月以来の再会。


「伊織、色々探してくれてありがとうね」

「ううん、私のわがままでごめんね」

「何言ってるの。お母さんたちこそ甘えてばかりでごめんなさい」

「ううん!なんで謝るの!」


私のわがままでまた窮屈な生活をさせてしまう。


「お母さん、病院行って今結構調子が良いからパートを再開しようと思ってるの」

「え!?無理しないで。私なるべく時給高い所探してるから」

「ううん、ありがとう。また一緒に頑張りましょ」


お母さん…ありがとう。

「ねぇねぇお姉ちゃん!新しいお家見にいくの?」


「そうだよ、また古い家になるけど良い?」

「うん!みんな一緒なら全然良いー!!」

「晴〜!!」

私は晴を思いっきり抱きしめた。



予約していた時間に不動産屋へ行って、内見するアパートへと向かった。



「わぁ!前のアパートより広いね」

「ほんとね〜」

晴もお母さんも喜んでくれてる。
ほんと、思っていたより広くて綺麗なアパート。


「こちらですと敷金礼金がー…」

「はい」


この2ヶ月ほど、暁斗くんに甘えて貯めてきたお金。
それでなんとか出来そう。
残りのお金で、まずは暁斗くんに返済をして…
あー、早く新しいバイト見つけなきゃ。


カンカンカンッ

アパートの階段を降りながら、この後に行く面接のことを考える。
絶対受からなきゃ。




「あーー!あきお兄ちゃんだ!!」

「え?」


晴の声でハッとして顔を上げると

「なんで…」

そこには暁斗くんと飯田さんがいた。




ズルッ!!!

「きゃっ!!!」

「伊織!!」


驚いて足を滑らせてしまった。

落ちる!!!!!




あ…れ

「痛くない…」


咄嗟に瞑った目をゆっくり開ける。



「暁斗くん…!」


目の前には暁斗くんがいた。
私を支えてくれて、階段から落ちずに済んだ。




「なにやってんの?コソコソと」


いや、こっちの方が危険かもー!!!!



「いや、えっと〜…」

「いい度胸してんじゃん。俺に嘘つくとか」

「いや、嘘ではないとゆーか…お母さんたちとは会ってるし…」


あかん、目が泳ぎまくってる


下まで残り4段ぐらいだったし、あのまま落ちてた方が色々とマシだったんじゃないだろうか。


「暁斗くんこそ食事会は!?」

「ある。でもお前のせいで遅れるかも」

「そんな!早く行ってくださいよ!!」

「なら、勝手なことするな」


だって・・・



「あの…暁斗さん。伊織は何も悪くないんです。私が頼りないばかりに…」

「違う!お母さんは何も悪くない」


私のわがままなんだから。


「お母さん、僕のわがままですから。お母さんも晴くんも伊織さんも誰も悪くなんかありません」


え…暁斗くん?


「どこが暁斗くんのわがままなの!?」

「うるさい。とにかくここの契約はなしだ」

「そんな…!頑張って探したのに!」

「勝手なことするな」


それじゃだめなのに。


「この後面接に行くらしいな?それも断っといたから」


はぁ!?

「なんでそんな勝手なことばっかりするの!?どんな気持ちで探したと思ってんのよ!!」


いつもそう。
勝手に進めて、私の気持ちは置き去り。



お母さんや晴と暮らしたい
だけど、牧さんや飯田さんたちとも過ごしたい


なにより


暁おとに認めてもらって、これからも暁斗くんと一緒にいたい


やっぱり私ばっかじゃん。



「暁斗くん、全然わかってない…」

「なにを?」


冷静に聞かれるとうまく言葉に出来ない。
悔しい。



「お姉ちゃんとあきお兄ちゃん、けんかしてるの?」


なかなかの険悪ムードを綺麗にぶち壊してくれたのは、晴のひと言。



「え!ケンカなんかしてないよ!」

「じゃあなんでお姉ちゃん、あきお兄ちゃんのこと怒ってるの?」


あぁ、私怒ってるように見えてるんだ。
まぁ怒ってはいるんだけど…
だけど、そんな資格ないのにね。



「あきお兄ちゃん、悲しそうな顔してる」


ドクンッ


そうなの?
私、また自分のことばっかりで暁斗くんのこと考えてなかった。


ハッとして、暁斗くんを見る。
でも、私が見た時にはすでにいつもの暁斗くんだった。




「晴、お前は優しい子だな」

すごく優しい声で、晴にゆっくりと話しかける暁斗くん。

晴の頭を撫でながら、目線を合わせるためしゃがんでくれた。
< 59 / 139 >

この作品をシェア

pagetop